今日が終わる前に





「ねえ、ガウリイ!」
「ん?なんだ?」
「あたしね、まだまだ行きたい場所ややりたいことってたくさんあるの」
「??何だ急に」

夜寝る前、いきなり部屋に転がり込んできた相棒がこんなことを言ったら、ガウリイじゃなくたって驚く。
けどあたしはそんな彼の困惑を無視して、彼をまっすぐ見て言った。
「まぁまぁ。それでさガウリイ、それに付き合ってくれる?」
「??ああ。もちろんだ。」
当たり前というように言ったガウリイに、あたしはとびっきりの笑顔で
笑った。






「ずっとこんなふうに旅をしていきたいわね」

あれは一ヶ月前のバレンタインデーのこと。
二人で街道を歩いているときの会話の最中に、視線だけはまっすぐ
彼を見て言った。


どうしてもあの日に伝えてみたかったのだ。
バレンタインデーは女の子にとって気持ちを伝える日。
けどあたしはチョコを渡さなかった。
もちろん恥ずかしいってのはあったけど。なにより。
今の自分の気持ちははっきりと形になっていない。
『相棒』以上に大切に思っている彼だけど、『好き』という気持ちはまだ
ふわふわとしてつかめない。
あたしにとってこんな経験は初めてで、感情に振り回されてばかりで、
まとめるにはまだまだあたしには時間が必要で。
だからあの日、チョコの代わりに何気ない言葉に気持ちを込めた。
彼にわからないように、今伝えられる『特別』じゃない台詞で。





今日は相手から気持ちを返してもらえる日。
あのときガウリイは笑ってくしゃりと髪をかき回したけど、何も言わなかった。
もちろんそれでよかったんだけど、せっかくホワイトデーなんだからちょっと欲張ってもいいんじゃない?



きょうはホワイトデー。
そもそもあたしはバレンタインにチョコを送ったりはしなかった。
送ったのは、小さな本音のかけら。
だからもちろんクッキーもマシュマロもいらないけど、送った言葉のお返し
をもらったっていい。



どうしても今日聞きたかったのは、一ヶ月前に伝えた気持ちに対する
たった一言の肯定の言葉。



「ありがとう。んじゃよろしくね」

来年のバレンタインには、きっと世間一般的なバレンタインデーができる
だろう。
ホワイトデーが終わるぎりぎりにこっそりもぎ取った『お返し』に満足して。
形になりそうな気持ちをそっと隠しながら、まだ大切な『相棒』に手を
差し出すとしっかりと握手した。