「なによっ!!ガウリイの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なっ!?それはオレのセリフだ!!とにかく未成年のクセに酒なんて飲むんじゃない!
一体何がどうして酒なんて飲んだんだ!?後2年もしたら堂々と酒を飲めるだろうに・・・
 まったく、仕方のないないお嬢ちゃんだ。それだから何時まで立っても目が
離せないんだぞ?」
ガウリイにとっては何気ない一言だったのかもしれない。
・・・だけどあたしにとっては、これ以上にはない痛い言葉・・・。
あたしとガウリイの年の差はどんなに頑張っても埋められない。
それは良く分かってはいる。
だから、いつも大きな手と背中に守って貰うだけではなく、あたしもガウリイの力に
なりたかった・・・
でも彼の周りには綺麗な女性が沢山いてガウリイの手助けができるし、あたしと違って
隣に並んでも何ら遜色も無く釣り合いが取れた大人同士。
同じ目線、同じ立場で仕事をし会話の中に入っていける彼女達があたしは羨ましくて
しかたがなかった。
なのにガウリイの馬鹿くらげ!あたしが一生懸命ガウリイに近づこうと頑張っても笑って、
往なして、あの大好きな大きな手であたしの頭を撫でるだけ。
ちっともあたしを見てくれない・・・。
やっぱりあたしはガウリイにとっては手の掛かる妹分であたしが望む関係には絶対
ならないのだろうか?
ガウリイと会う時は頑張ってお洒落して軽くではあるが姉ちゃんから化粧道具を借りて
(ちゃんと許可は取りました)お化粧もしたりしてはいたのだけれど・・・。
なのに!なのに!!ガウリイは服装を褒めてくれる所かお化粧をしている事にすら
気付かなかったのよ!?
何時も何時もあたしも行動はあたしの思いとは裏腹で落胆する事が多くて。
待ち合わせ場所にだって時間より早く来てドキドキしながら待っていた事すらあたしの
一人相撲だったわけで。
告白をする前から失恋決定!?
そう思ったらあたしは大粒の涙をぼろぼろと零していた。

「んなっ!?何で泣くんだ!?ご・ごめんな?そんなにキツく言ったつもりはなかった
んだが。でもな?リナはまだ未成年だろ?成人してからでも・・・いや、成人しても
さっきみたいにガブ飲みは体に悪いんだぞ? 今からそんな無茶な飲み方を覚えたら
後々大変だからってオレは心配でな? だ・だから、ごめんなリナ。頼むから泣かないで
くれ。すまない。」
あたしの涙を見て泣いた理由を見当違いな方向で解釈し慌てて謝りだすガウリイ。
――――何故あたしはこんな外見は超一級品。なのに中身はそれを裏切りまくりの
とっぽいくらげ相手に一喜一憂させられているのか―――・・・。
ふと、そう思った瞬間、今まであたしの胸中を支配していたものは消え去り、かわりに
猛烈な怒りが爆発した。 
「どうせあたしはお子様ですよっ!!ガウリイにとっては何時まで立ってもちびちゃん
ですよ!! こんな子供放って大人の女の人の所にでも行けばいいじゃない!!
あたしが、何で、怒っているのか、泣いているのかなんて小さい子の癇癪程度にしか
理解してないんでしょう!?・・・なんで・・・・なんでこんな・く・くらげ相手に・・たしが・・
どん・思い・で・・・」
「リナ?やっぱり酔ってきて――― 」
言葉を連ねている途中から、だんだんと声が小さくなって俯いてしまったあたしを訝しく
思ったのか、ガウリイはあたしに手を伸ばしてきた。
ぱしぃぃん!!
「や!触らないで!!」
ガウリイの手があたしに触れる前にあたしはその手を振り払っいた。
「―――リ・・ナ?」
振り払われた手をそのままに呆然とあたしの名を呼ぶガウリイ。
「帰る!!もうこの部屋にも遊びに来ないし、ガウリイにも二度と会わない!!
 さようなら!!
 あんた以上に良い男見つけて青春を謳歌してやるんだから!!」
「へっ!?――ちょっと待てぇぇぇ!!何でいきなりそうになるんだ!?
 リナにそう言われたからって『はいそうですか』お前さんを手放す気はない!!
 他の男に手渡す気もないし、オレ以外のヤツの隣に立たせるつもりなんてもっと
ないっ!!!」
そのまま部屋から飛び出して行こうとするあたしをガウリイは引き止め――――
ぎゅぅむぅぅぅぅぅ!っとその腕の中にあたしを抱きしめた。
あたしの発言に余程慌てたのか手加減なしに抱きしめてくれたので、
はっきり言って息が出来ない!!
くぉんの馬鹿力がぁぁぁぁ!!!
呼吸!!本っっ当に息が出来ない!!誰か酸素ぷりーず!!
くらげに絞め殺される!なんて間抜けな最後、絶対に姉ちゃんに指差して笑われる。
そして当然の如く、己の生命保持の為ガウリイの腕の中で暴れだした。
「いい加減に放しなさいよ!このくらげ!!」
「嫌だ!!リナが離れて行こうとしているのに放すわけがないだろうが!!」
「子供の相手なんて詰らないんでしょう?だから、その煩わしさから開放してあげる
って言ってるんでしょうが! 理解したなら放せぇぇぇぇぇ!!!」
「断固として断るっ!!!
 オレは!!!――お前さんに厭われ様とうざがられ様がそんなのは関係ない!!
 ・・・ちょっぴり後で落ち込むけどな!!」
「何を気弱な事を力一杯、胸張って言っとるかぁぁぁぁぁぁ!!」
「大体な、小さい頃から見守って、護ってきた大切な女の子を成長したから
『はい、どうぞ♪』って渡す気はないって言ったよな!?
好きな子が泣いている理由も恐らく・・・、いや、まったく分からない・・かも、だけど・・・。
だからって、このまま帰して一人で泣かせるのも、二度と会えなくなるのなんてオレは
ごめんだっっ!!」
「何が大切な女の子よ!?あれはするな!これには近づくな!って人の行動を制限
して尽くあたしの邪魔ばかりして、ただの幼馴染のくせに保護者面して、大人ぶって、
余裕かまして年上風吹かしてさ、あたしが一生懸命頑張ってものらりくらりと躱して
ばかりで、ちっともあたしの事なんて見てくれないじゃない!!」
「リナがルナさんに仕込まれて、そこら辺の不良なんかに簡単に負かされる様な腕っ節
じゃない事は側で見ていたオレも良く分かっている。
 黙っていれば近所でも評判の可愛い子なのも良く知っているし、だけど、その性格と
言動のせいで不良どころかチンピラからも恐れられているのも知っている!!」
「あんたは、あたしに喧嘩売ってんのかぁぁぁ!!!!
 馬鹿にしまくる気なら、あたしは聞く耳持たないし、いい加減放しなさいよぉぉぉ
おおおお!!!」
「誰が手放すもんか!!!
 惚れた女に怪我なんてさせたくないのが繊細な男心ってもんだろうが!」
「あんたの何処が繊細なのよ!? 4年前、あんたの家の人が全員食中毒に罹った時も
一人だけぴんしゃんと元気だったくせに!!
一緒に相伴に預かった、うちの父ちゃんだって入院して大変だったってのに!
大体!!
なんで、あたしはこんなくらげ相手に恋煩いで翻弄されなきゃならないのよ!!
大事だとか、守ってやるだとか兄貴風吹かせんなって何時も何時も言っている
でしょう!?」
二人して抱き合いながら、ぎゃいぎゃいと言い合いに熱中し続けていると、
ぽーん、ぽーんと壁に掛かっている時計が健気に己の仕事を果たして時の音を
告げる。
その音に我に返ったあたしとガウリイは先程の互いの言葉を思い返し、二人して
真っ赤になり、どう反応を返せば良いのか戸惑い一歩も動けず、自分の鼓動と時計
の針の音がやけに大きく聞こえたのは、お互いきっと同じで暫くそのままの体制で
いた――――。

「あ――、えっとな?リナ?」
「なななな何よ?!」
思わず裏返った声で返事したあたしの反応にガウリイはぷっと吹き出して笑い出した。
睨み付けて反論しようとした、あたしの目に飛び込んできたのは何時も通り――ううん、
今まで見たことのない穏やかな男の人の顔で微笑んでいた。
くうぅぅぅぅぅぅ!!
さっきまで動揺していたくせにぃぃぃ!!ガウリイののくせにぃぃぃぃ!!
今、真っ赤な顔のままなのはあたしだけで、ガウリイは既に何時も通りだった。
どんなにくらげでもやっぱり大人で、あたしなんて背伸びしても追いつけない程の経験
を積んでいる年上の男の人で、悔しいけど腕っ節に自信があっても振りほどけない
力強い腕の持ち主で、整った顔立ちを崩しまくって微笑んであたしの髪に頬ずりして
いるガウリイをあたしは好きで―――――。
「って、いい加減放せって言っとうだろうがぁぁぁぁ!!!」
「うごふぅぅぅぅ!!
お・おまえなぁ!人が折角、幸せに浸っていたのに水を差すなよなぁ」
繰り出した渾身の一撃がガウリイの顎に決まり、涙目で拳が決まった顎を摩りつつ
少しだけあたしから離れたガウリイを意を決して見上げた。
「何で笑っているのよ?」
「嬉しいから♪」
「何で嬉しいのよ?」
「オレの片思いだとばっかり思ってからなぁ。 実は両思いだったんだな♪オレ達♪」
大の男が音符マークを嬉しそうに付けるなぁぁぁぁ!!!
恥ずいです。
自分の言動とガウリイの反応が恥ずかしいすぎて身の置き場がありません。
どうしよう?と内心焦りまくりのあたしを眺めつつ
「で、だ。リナ?」
行き成り真顔に戻ってあたしを見るガウリイ。
目を逸らす事も、誤魔化す事も許さない。とその蒼穹は雄弁に物語っていた。
「何で酒なんて飲んだんだ? テーブルの上に出しっ放ししていたのはオレも悪かっ
たが、酒に手をだして諫めたら「さよなら」だろ?
 普段から「くらげ」だの何だのリナに言われているオレだが、理由も分からないまま
じゃ嫌なんだ。泣いた理由も含めて教えてくれるか?」
まだ涙の後の残る頬を指でそっと拭いながら優しく、優しく囁くガウリイ。
じっとあたしの返事を待ち、見つめ続けるガウリイを前にその理由を言っていいものか
どうか必死に考えていた―――。

部屋に入った瞬間、知らない香水の香りが複数したとか。
その出しっ放しにしていたワインの横にあったグラスや灰皿に残っていた煙草に口紅が
付いていたからとか。ソレを見て何だか泣きたくなったあたしに「リナは色気より食い気
だろ?」って空気を一切読まずに春の陽だまりの如く微笑んで、たい焼きを差し出した
あんたに殺意が湧いてきたとか。
言っても良いんでしょうか―――?




ちなみに動揺しまくった頭で考えていた言葉をそのまま声に出していたらしく、あたしが
焼きもちを焼いてくれた事にガウリイは狂喜乱舞し、その嬉しさの余りあたしを押し倒す
という不埒な真似をしでかしてくれたので、即座に報復はしておいた。
これだから男ってヤツはっ!!!
その後で口紅と香水の説明をされたんだけど・・・。
良いワインを手に入れたので会社帰りに同僚を誘い男三人でガウリイの部屋でワイン
を飲んだまでは良かったらしい。
話の流れで自分の彼女自慢になり『ホワイトデーに贈るプレゼントが誰が一番か?』
で議論になったらしく、それならば品定めをっ!!な展開になり、香水は匂いを確かめる
為に吹き付けて、口紅は試してみなければ、どんな色か分からないのでぬったらしい
そうです。
・・・・何やってんだあんたら・・・本気で・・・。
何で「らしい」とかそういった言葉が多いかと言いますと、この時点でガウリイ達はボト
ルを何本空けたのか記憶に無くて、記憶がうっすらと残っている程度だからだそうです。
あんた、あたしにお酒の無茶飲みはやめろって言っといて・・・・。
キッチンを覗いたらワインボトルが十数本転がってました。あたしが飲んだのは最後の
一本だって言ってた。
それだけ飲んどいて、二日酔いにすらなっていないとは・・・あんた本当に人間か?
ガウリイの説明を受けている最中、男同士で化粧(口紅だけだが)をしあう様子を想像
して引くあたしを余所に、その同僚二人の様子と証拠の写メを見せながら嬉しそうに話す
ガウリイに、あたしはとても複雑な心境になったのは言うまでもありません。
だってガウリイってば造形が良いからすっごく綺麗だったのよ!?
残りの二人も違和感を感じなかったので更にへこみました(男のくせにぃぃぃぃ!!!)

――追記。
ガウリイがあたしにくれたホワイトデーのプレゼントは可愛い淡いピンクの口紅でした。
晴れて恋人同士になったのでデート時に貰った口紅を塗って出掛けるのですが、直ぐ
に口紅を塗り直す羽目になるので、とても大変です。(//////)