大嫌い






「そんな事言ったって、ダメなもんはダメなんだ!」

「んな事言ってないで、試すだけ試してみてったら!!」

「イヤだ!!」

「我が侭!!」

「どうやったってアレだけは大嫌いなんだ〜っ!!」

「そんなお子様みたいな事言う奴には金輪際ご飯作ってあげないからねっ!!」

パタパタとスリッパを蹴立てて、あたしは自室に駆け戻る。

乱暴にエプロンを外して椅子に放り投げ、バフンとベッドにダイブする。

「せっかく高いお金出してまで取り寄せたってのに・・・」

枕を引き寄せて、ギュッと抱き締める。

「馬鹿クラゲ・・・。 あたしの作った料理を拒否するなんて」

今日だけは我慢して食べて欲しかったのに。

「ガウリイなんて・・・大嫌い」

3回目の結婚記念日。

同じ時期に判明したもう一つの嬉しい事実。

伝えたらガウリイはすごく喜んでくれたけど、先を考えたら
彼にも色々と改善してもらわなくてならない事があって。

とりあえず手近な点から解消しようと色々作戦を練っては
実行したんだけど、総て失敗に終わった。

最終手段として、古い知り合いに頼み込んで用意したものも
奴にはあっさりと避けられてしまった。

もう、打つ手なしか。

「ガウリイの馬鹿・・・。そんな事でこの子の父親としてやっていけると思ってんの?」







3回目の結婚記念日を前にして、急に体調を崩してしまったあたしは
何の疑問もなく内科を受診したのだけど。

診察を終えた医者から「おめでとう。 来年にはお母さんだね」と告げられた。

次からはここに・・・と紹介状をもらって、家に帰って。

ガウリイになんて報告しようか・・・と思っていたら、急にお腹の虫が鳴いた。

食料保存庫から目に付いたものを取り出して、刻んで炒めて味をつけて。

モグモグとおやつ代わりに食べてる途中で気がついた。

「・・・なんで、あたしこんなもん食べてるの?」

目の前のお皿にはてんこ盛りに詰まれた緑一色のピーマン炒め。







後日、紹介してもらった産婦人科の先生に「こんな事が」と質問すると
「それはきっと、お腹の子がピーマン好きなのね」と笑ったのだ。

それ以来、生まれてくる子供の為にもガウリイにはピーマン嫌いを克服してもらいたいと
思って、あれこれ手を尽くしてきたのに。

「子供の前で好き嫌いなんてしてちゃ、教育上良くないんだからね」

ううん、本当は好き嫌いが嫌なんじゃなくて。

あたしがこんなに頑張って作ったお料理に、手をつける前から
「これは・・・さすがに食べられない」って言われたのが嫌だったんだ。

ポロッと、涙が零れた。

妊娠してからというもの、涙腺の調子まで悪くなってしまったらしい。

ホルモンバランスの関係か体調の変化からなのか、
妙に感情の起伏が激しくなってる。

ガウリイなんて、大嫌い。

こんなにあたしが悲しんでるのに、ピーマン一切れ食べてくれないガウリイなんて。

せっかくジョージの畑から、朝一に摘んだ新鮮なのを送ってもらったのに。

人の努力を無駄にしてからに、まったくもう・・・。







いつの間にか、泣き寝入ってしまったらしい。

あたしの上には毛布がきちんとかけられていて、脇の椅子には
でっかい図体のお子様味覚な旦那が座ったままで寝こけている。

サイドテーブルの上には、空になったお皿とフォーク。

よだれの垂れた口元にはちっちゃな緑のアクセントが引っ付いてるし。



「馬鹿・・・。食べられるんなら最初っから食べてよ・・・。
ガウリイなんて・・・大・・・なんだからね」