うっすらと積もった雪に足を取られて、あたしは今日もガウリイに捕まってしまった。
このクソ寒い中を、我慢に我慢をして宿から出かけたって言うのに
「また行くつもりか?」って一言だけで、人の腰を掻っ攫って部屋まで
強制連行してくれちゃって。

「ほれみろ。 寒かったんだろうが、鼻の頭が赤くなってるぞ?」って、
『ぽすん』とあたしを落としたのは部屋備え付けの火鉢の前。

シュンシュンと湯気を立てている薬缶の湯で、あたしのために淹れてくれるのは
安眠の為のハーブティー。

「ほら、これ飲んだら大人しく寝ろ」

ぽすぽすと無遠慮にあたしの頭を軽く撫ぜると、ガウリイはベッドに腰掛けて
剣の手入れなんか始めてしまう。

「ど〜してあんたはあたしの邪魔をするのよ」
せっかく半月ぶりに、良さげな盗賊情報を聞き込んだってのに。

この寒さの所為でろくな仕事にありつけないのもあって、そろそろ懐具合が
寂しいのはあんたも知ってるでしょ?

「どうしてもこうしてもないだろ? こんな夜中に女の子が一人で
外出しようとしたら、止めるのが普通だろ」

こちらを見もしないで、サラッと言ってくれるのがまた腹の立つ!

「だから、それは普通の女の子の事例じゃないの? お生憎様、
あたしはそこらのか弱い女の子じゃないの。
あたしと長い付き合いなんだし、そんな事重々承知でしょうが、あんたはさ」

手の中のハーブティーは、ほのかな香りと湯気を運んでくれる。

「ああ。リナが盗賊キラーなのも、ドラまたって呼ばれてるのも、
食い意地が張っててがめついのも知ってるぞ?」

・・・ずいぶんとはっきりものを言うじゃないの?このヒモくらげくんは。

「あのね」

「そんで、いくら強かろうと場数を踏んでいようと。リナは可愛い女の子だって事も知ってる」

いつの間にか、手入れの手を止めてこっちを見ている男の笑顔は心臓に悪かった。
思わず抗議の台詞すら忘れてしまうほどに。

「な、何言い出すのよいきなり・・・」

うわっ、沈まれ心臓っ! いきなりダッシュかけるんじゃないっ!!

「ほれ。そうやってすぐに赤くなるのも女の子の証拠だな」

クククッと人の悪い笑みを浮かべてガウリイがからかってくる。

「な、何よ! 赤くなっちゃ悪いっての!?」

自分でもムキになっている自覚はあるけど止められない。

いつまで人をお子様扱いするつもりなのよ!!

「いや、可愛らしいと思うがなぁ。リナはすぐに赤くなるから
判りやすいし、耳まで染まるから見てて面白いし」

あんたね・・・人を玩具にしてない?

そっと腰に手をやって、リナちん愛用のスリッパを握りしめ。

「なら、もっと近くで見せてあげるわ」

ニッコリと笑ってゆっくりと近づく。射程範囲まであと1メートル。
50センチ。30センチ・・・。

うっしゃ、もらった!!

「こらこら、そういうオイタは止めとけ」

あっと思う間もなく腕を掴まれて、あっさりスリッパを奪われ放り投げられたかと
思ったら、捕まったままの腕を引かれてベッドに倒れこまされる。

「きゃあ! なにすんのよ!!」

「ほれ、今日はもう寝るぞ。 続きは明日にしないか?」

そのまま壁際に押し込められて、お布団を掛けられるとその下で
ギュッとガウリイの腕に抱き締められる。

「あたしのベッドはあっちなんだけど?」

この部屋は2人部屋だからベッドは2つ、ちゃんとあるのだ。

「2人で寝た方が暖かいだろ?」

「狭いけど?」

「じゃあリナは暖かいのと狭いの、どっちが我慢できない?」

「・・・寒いのはいや」

「なら、決まりだな」

そうして、あたし達はまるで熟年夫婦のように仲良く枕を並べて
清らかなる一夜を過ごしましたとさ。