すれ違いざまに





サクサクと下生えの若草を踏みしめながら、オレは広大な庭を突っ切っていた。

片手にはロープでぐるぐる巻きにした賊を一人、ズルズルと引き摺りながら。

リナはというと、依頼人と一緒にいる。

今回の依頼は「依頼者の警護及び、屋敷の保護」

依 頼人の身柄はもちろんの事、この屋敷の壁にすら傷一つつけてはならないとのお達しで、魔法を駆使しての破壊行動にも定評のあるリナは「君には私の警護と共 に、この建物を破壊しないように私に監視される義務がある」とか何とか、判るような判らないような理由でオレと持ち場を離されてしまった。

リナの噂を知っているのなら、建物を壊されたのないのであれば。

リナを雇わないか、雇ったとしても屋敷から離れた場所で見張りをさせるか、賊の探索をさせれば良いものを。どうしてこんなマネをするんだろうか。

・・・依頼人の趣味じゃね〜だろうな。

ふと、嫌な考えが頭をよぎる。

依頼人は、先年当主の座を受け継いだという若い男だった。それも独身、恋人もなし。

最初に依頼の話をしている時も、オレの事なんぞまったく見ずにリナだけを見つめていたな・・・。

少し、歩く速度を速めた。

玄関で警備している(この場だけの)仲間に手で挨拶して、ズカズカ階段を上がる。

この先の奥の部屋にリナが詰めている。

ダン、と、階段を上がり切った時だった。

「待ってくれ!! もっと証拠を・・・!!」

こちらに向かって駆けて来るリナと依頼人の姿。

慌てたようにリナに追いすがろうとする依頼人は、この際置いといてだなぁ。

「どうした?」とリナに声を掛ける。

「ガウリイ、そいつは囮よ。さっきあたしの結界を突破した奴がいるの。たぶんそいつが本命よ!」
『うふふふふ』と、返事と共にいかにも嬉しげに笑う彼女の表情に『こりゃあかなりストレス溜め込んでたな』と冷や汗が流れる。

「なら、こいつはどうする?」

ほれ、と依頼人の前に投げ出した虜をリナは一瞥しただけで「それも証拠になりそうだからとっといて。用がすんだらさっさと来てね」言うだけ言うとさっさとオレの横を通り過ぎていく。

すれ違いざま「さっさと終わらせて美味しいもの食べような」と囁いたら。

とん、と。

返事の代わりか、リナの小指がオレの手の甲を掠めていった。