マグノリアと共に イリーズSide





「そこのお嬢ちゃん、ちょっと待ってくれ!!」

 その日、あたいが山から帰ってきてすぐの事だった。
 夕飯の買い物に出かけた折に、いきなり知らない奴に声を掛けられたのは。

 「・・・あんた、あたいに何か用?」

 あたいを呼び止めたのはすらっとした長身で、
金髪ロン毛の結構整った顔の兄ちゃんだった。

 腰には長剣を差していて、肩と胸、腰周りに軽装鎧を着けていて
 パッと見た感じは、流れの傭兵っぽい男。

 「あぁ、いきなりすまん。
 あんたから知った匂いがしたんでな。
 それをどこで手に入れたのか、教えて欲しいんだ」

 まったくの見ず知らずの人間であるあたいに、
そいつは真剣な表情で詰め寄ってくる。

 ・・・怪しい。

 どこから見ても、香水なんてものとは縁の無さそうな男なのに。

 ・・・こいつの目的は一体何だ?
 


 あたいのそいつを見る目は、かなり胡散臭げだったに違いない。

 「ガウリイさん、そんな聞き方をしたら誰だって警戒しますって」

 男の後ろから今度は若い女の声がした。

 「驚かしちゃってごめんなさい、私達怪しい者じゃないんです。
 実は人を探していて、その人が持ってる香水と同じ匂いが
あなたからしたものですから。
つい、声を掛けさせていただいたんです」と。

 男の後ろから現れたのは、やや小柄で黒髪を肩まで伸ばした
瞳の大きな巫女風の女性。

 「お時間、ちょっと良いですか?」
もしよろしかったらお茶でも、と誘う女性よりも。


 ジッとあたいを見つめている男の方に、どうしても意識が行ってしまう。

 「うん、いいよ。 その代わりそっちのおごりだからね」

 もしかしたら、この人が。

 「よかった。 なら、あなたの知っているお店に案内してくださいっ!」

 明るく話しかけてくるおねーさんに促されて、あたいは二人を
とりあえず手近な店に案内したのだった。







 「まずは自己紹介から。
 私はアメリアといいます。こっちはガウリイさんです」

 おねーさんに促されて、男もペコッと会釈した。

 「宜しければ、あなたのお名前を窺いたいのですが」

 女の方は言葉使いがかなり丁寧。きっと良い家柄の人なんだと思った。

 「あたいはイリーズって言うんだ」

でも、気を使ってやる必要は感じなかったので
いつもの口調で答えてやる。
 
 まぁ、偽名じゃないだけありがたく思ってよね。
・・・って、言わないけどさ。

 「イリーズさん、ですね」おねーさんは口の中で確認するように小さく呟くと、
 「では、単刀直入に聞きます。
あなたは『リナ=インバース』を知っていますか」と。

 いきなり、直球勝負で来た。

 「名前くらいは聞いた事あるよ、結構有名な人みたいだし。 
・・・確か、魔道士だったよね?」

 とりあえず無難な返事をしておく。

 「では、最近この町で彼女を見たって噂を聞いた事は?」

 「ないよ」

 「では、最近この街で見ない顔の、栗色の髪を長く伸ばした
赤い瞳の小柄な女性を知りませんか?」

 「知らないよ」

 その後もいくつか質問を受けたけど、当たり障りのない答えを返し続け。

 「では、質問を変えます。 
 あなたが今身に付けている香り、それはどこで手に入れられましたか?」

 ググッとテーブルに身を乗り出して、アメリアさんが聞いてきた。

 これはうまく誤魔化さないと、ボロが出る質問だ。

 ・・・いよいよ核心を突いてきたか。

 「これは出入りの業者が持ってきたものを買ったんだ。
 あたいが香水を付けてちゃおかしいかい?」



 「嘘だ」



 それまで黙って腕を組んでこちらを見ていた男が、初めて反応した。

 「嘘って、そんな事を嘘ついてどうなるってんだよ!」

 男は、言い返したあたいの顔を睨みつけるようにしてキッパリと言った。

 「それはオレがリナに渡した物だ。同じ物は二つとない」と。
 


 ああ、やっぱりそうだった。
 あたいの予想通り、この人がリナねーちゃんの想い人。

 あんたは一体何を想ってここまで来たのさ?

 「あんたがもう一人の『デモン・スレイヤー』ガウリイ=ガブリエフだね?」

 あたいの問いに、男は驚いた様子も無く「ああ」と短く返す。

 「で、あんたが探しているのは『デモン・スレイヤー』リナ=インバース」

 「そうだ」

 「何で彼女を探してるの?」

 「オレにはあいつが必要だからだ」

 この人の答えにはまったく迷いってものが感じられない。

 「でも、あんたに会う事をリナ=インバースは望んでないかもしれない」

 「それでも、会わなきゃいけないんだ」

 その表情は、まるで命を賭けた真剣勝負に挑む騎士のように鋭くて。



 「・・あんたは。リナ=インバースの、何?」

 あたいの問いに、男はしばし黙った後に言い切った。

 「オレは・・・あいつに惚れている、只の男だ」と。







 「たしか自称保護者じゃなかったっけ? ガウリイさんって」

 場の空気を軽くしようとわざと茶化すように言うと
「どうしてそれをご存知なんですか!?」と
 隣にいたアメリアさんの方が目を丸くした。

 そりゃ、あたいがリナねーちゃんと面識があるのなら、
この位知っててもおかしくないだろ?

 「確かにあたいは嘘ついてたよ。 これは買ったんじゃなくて貰ったものだし。
 ・・・とりあえずさ、ここじゃ詳しい話が出来ないからうちに来てよ」
 二人を促して、さっさと茶店を後にする。

 流石にこんな街中で込み入った話なんて出来やしないから。

 ・・・どこで誰が聞いてるとも限らない事だし。






 ただ、出会ったばかりのあたいにでも分かった事がある。

 それはリナねーちゃんの事を一番心配しているのは、この二人だって事。
 
 
 
 


 「では、リナさんは間違いなくこの町にいらっしゃるんですね?」
 場所を家に移して応接間に案内してすぐ、
アメリアさんにリナ姐の事を再確認された。

 ここに着くまで道すがら、二人の詳しい素性を教えてもらったんだけど。

 正直むちゃくちゃ驚いた。
 こんなに気さくな人が、あの大国セイルーンの第二皇女様だなんて。

 最初『冗談きつっ!!』とか思ったけど、半信半疑なあたいに
身の証しとしてセイルーン王家の印籠を見せてくれて。

 ポンとあたいの手に持たせてくれたけど、こんな大事な物を
気軽に触らせても良いんだろうか。

 表情豊かにあれこれと世間話に乗ってくれるアメリアさんとは
 対照的に、隣にいるガウリイさんは殆ど喋らない。

 ・・・ま、この人の事情を考えれば無理もないんだけどさ。

 「但し、まだあんた達を完全に信用したわけじゃないから、
 今すぐ居場所を教えろってのには応じられないよ」

 あたいの答えが気に入らなかったのか、ガウリイさんがこっちを睨みつけた。

 それを内心『怖っ!!』と思いながらも、ここで折れるわけにも行かなかった。

 何しろこれは、リナねーちゃんの将来に関わる事だからだ。



 昔あたいの警護依頼を受けたのがきっかけで知り合った
『リナ=インバース』という人は。

 思い立ったら即行動、美味しいものとお金にめっぽう目がなく、
このあたいの逃走を何度も防ぎ切るような凄腕で、
いまのあたいとほとんど変わらない年の当時、既に
世間に知られた通り名を持つほど百戦錬磨の天才女性魔道士で。

 やる事は強引かつ豪快。かつ計算高くて巧妙。

でも、本当に助けを必要としている時には
 とことん親身になってくれるような、結構頼れるねーちゃんだった。

 あたいは今でこそこの街でじーちゃんと住んでいられてるけど、
正直ここに連れて来たのが他の人物だったとしたら。

 あたいは、悪くて土の中。

良くても元いた家に一人きりで暮らしていただろう。
 そうならなかったのがリナねーちゃんのお陰なのは間違いない。
 (一緒に居た変な女は除く)

 そんなねーちゃんをあたいは随分気に入ってたのに、久しぶりに
再会した今のねーちゃんはまるで別人のようになっちまってて。

 それがあたいには大いに不満だったのだ。

 今は亡きかーちゃんに教わったうちの家訓の一つに
「礼は半返し、恨みは倍返し」ってのがあって。

 なら、昔受けた恩は半分でもきっちり返しておかなけりゃいけないんだもんね。







 それからしばらく、茶飲み話という形の情報交換をした。

 但しあたいはねーちゃんの手がかりになるような事は一切言わず、
 あちらもガウリイさんは一切喋らない。

 それほど長く話した訳じゃなかったけど、この二人は信用できると思った。

 これでもあたい、人を見る眼には自信があるんだ。

 「・・・なら、アメリアさん」
 あたいは一つ決心をした。

 「いきなりガウリイさんをリナねーちゃんに会わせるのは無理だけど、
 あんたがこっそりリナねーちゃんの様子を見るってのはどうだい?」

 これが今、彼らにあたいがしてやれる精一杯の譲歩。

 「でも、今のリナねーちゃんはあんた達の知ってる姿じゃあない。
 それでもねーちゃんを見つけられたら。
 その時はあんた達に協力するよ。 但し、それらしき人に声を掛けるのは厳禁。
 周りにリナ=インバースに関してあれこれ聞き込むのもダメ。
 期間は一週間、この条件でいいならやってみるかい?」

 協会絡みの事もあるし、さすがにこれ以上ヒントを出す訳にも行かないんだ。

 「アメリア・・・頼む」

 ガウリイさんが深々とアメリアさんに向かって頭を下げた。

 自分で探しに行けないのがよっぽど悔しいのか、硬く握った拳が小さく震えていて。



 ・・・そうだよね。

 本当なら、自分の手で探しに行きたいよね・・・。

 でも、今の弱りきったリナ姉にこの人を会わせたら、きっとどうにかなっちまうから。

 そう簡単にはあんたの願いを叶えさせてあげられないよ。

 「あんたはその間、うちに泊まっておいでよ。
 宿泊料の代わりに雑用とかしてもらうけど、それでもいいよね?」

 そう言って、ガウリイさんの監視と観察を兼ねて提案すると
 「よろしく頼む」と、こんどはあたいに深々と頭を下げた。







 数日後。



 「フレア・アローっ!!」

 ぼひゅっ!!

 呪文を完成させると、あたいの手から炎の矢が生まれて
一直線に『的』に向かって飛んで行く。

 『的』は片手でだらりと持った剣で、その矢をいとも簡単に切り伏せ
あっさりと消滅させた。

 「・・・ほんとに、軽々と斬るんだね」

 『的』のガウリイさんは何事もなかったかのように突っ立っている。

 「じゃ、次、いくよ。 デモナ・クリスタル!!」

 印を組み呪文を唱えて完成させて、天から彼の頭上に大きな氷の塊を降らせたが。

 じゃじゃじゃっ!!

 片手を数度動かしただけで、魔法の氷はカキ氷のようにサラサラと崩れ落ちる。

 「・・・もう、終わりか?」

 本気でつまらなさそうな声に、ムカッと来る。来るけどさっ!!
 何やっても息一つ乱れさせられないなんて、悔しすぎるっ!!

 ぜ〜ったい一回位は焦らせてやるんだからっ!!

 「じゃあ今度は・・・」半ば意地になって次の呪文を唱えようとした時。

 「あの〜っ、すみません」勝手口の方から声が掛かった。

 「ごめん、ちょっとここにいて」
 ガウリイさんをそのままにして、あたいは声のする方へと歩いて行って。

 ひゅごっ!!

 何かが頭を掠めた、と思った時にはもう全ては終わっていた。

 ドサッと、どこかで何か重いものが倒れる音がして。
 音のした方を見ると、勝手口に倒れている一人の男が見えた。

 男の傍には薪用の木の棒がゴロリと転がっていて。

 反対方向、つまりあたいの来た方角の木の幹には、
炎で焼け焦げた痕がブスブスと煙を上げていた。

 もう一度男の方を振り返った時には。

 いつの間に近づいたのか、ガウリイさんがそいつの上に馬乗りになって
易々と押さえつけているのが見えた。

 「お前さん、いきなりどういうつもりだ?」

 片手で男の腕を押さえながら、淡々と聞いているはずなのに
 相手の男は額からダラダラと脂汗を流している・・・って。

 「あ〜っ!! お前はアッサム!! もう出てきやがったのか!!」
 まだ釈放されたなんて聞いてないのに。

 「何だ、知り合いか?」
 全然動揺しないまま、ガウリイさんはあたいに確認する。

 「そいつはあたいの命を狙ってたんだ。
 昔この家を巡ってそいつに殺されそうになって、その時はリナ姐と
返り討ちにしてやったんだけど。 ・・・まだ懲りてなかったみたい」

 ・・・危なかった。

 もしガウリイさんがいてくれなかったら、今頃あたいは黒焦げであの世逝きだった。

 「で、お前さんはリナに魔法を習ってる、と」
 一体どこから取り出したのか、荒縄でグルグルとアッサムをふん縛りながら
さらりとガウリイさんが言う。

 「・・・なんで?」

 何で知ってるの?
 
 「なんでって」ぽりぽりっと戸惑ったように頬を掻きながら
 「呪文の使う順番とか、タイミングがな。リナと重なるんだ」って。



 さっき見ただけでそこまで分かるんだ・・・。



 「ついでに言うなら、お前さんが朝から家を空ける日には
こっそりリナと会ってる、ってのも分かってる」って、サラッと爆弾発言!!

 「なら、どうしてついて来ないのさ!?」

 あれだけ会いたがってたのに、どうしてと不思議に思って叫んだら
 「だってなぁ・・・勝手な真似しないって、約束しちまったし」って。

 ちょっとだけ、困っなって顔で笑った。

 お前さんがそういう条件を出したのだって、きっとリナを心配しての事
だろうから、ってさ。

 この人は・・・本当に不器用とゆうか馬鹿正直とゆうか。

 「イリーズさん、ガウリイさんっ!! どうしたんですか!?」
 異変に気が付いたのか、家の中からアメリアさんとじーちゃんが走ってきた。

 「おおっ、こやつは・・・ううむっ」

 「じーちゃん、この期に及んで冗談言おうとしなくていいから」

 あたいの冷たい突っ込みに、じーちゃん涙目になってたけど。

 「こいつが命を狙ってきた所をガウリイさんに助けて貰ったんだ」って。
にっこりと笑ってガウリイさんの横に立った。






ひとまず皆、家の中に入る事にして。

 とりあえずアッサムの野郎は縄と猿轡で身動き取れないようにして、
アメリアさんの作った結界の中に閉じ込めた。

リビングでお茶の用意をしながらもじーちゃんとあたいは
軽い興奮状態になっているのに、後の二人は平然そのもの。

 「これ位の事はリナといたら、蚊に刺されるのと同じ位のレベルだよな?」

 「そうですね、蚊の方が後で痒くなるから厄介ですけどね」

 あくまで普段どおり。



 ・・・やっぱりリナねーちゃんの仲間の人って、ただ者じゃなかった。

 「で、イリーズさん」

 いきなりアメリアさんがあたいに話を振ってきた。

 「お約束通り、リナさんを見つけました」

 うん、そろそろだと思ってた。

 「ここの魔道士協会で見かけたのですが、特徴は
顔を隠すように垂らしている黒髪。
 白い・・・巫女服に似た服を着ていて、俯き加減で歩いてました」

 「あとは?」

 「これは約束違反にはなりませんよね?」と、アメリアさんは前置きをしてから
 「司書の方に『あの方は何というお名前ですか?』と尋ねたら
 『リリーナ=ランダース』さんだと言われました。愛称はレディーリリー。
 はっきり言って、私、鳥肌が立ちそうでした・・・」

 あんなのはあまりにもリナさんに似合いません・・・・と、話しながら
 薄ら寒そうに腕をゴシゴシさすってるし。

 「じゃあ。何でその人がリナ姉ちゃんだって思ったの?」

 一体何がリナ姐だって断定する決め手になったのか。
疑問に思ったので聞いてみると。

 「あっ、それは簡単です!」
 彼女はにっこりと笑って答えた。

 「評議長さんが教えて下さいましたから」と。
 





 「えええええええっっっ!!!!!」

 あのへっぽこ評議長め、あっちこっちでボケかますなよっ!!
 アッサムの釈放前に連絡入れるって言ったくせに思いっきり忘れてるし、
自分で秘密だって口止めしといた事を、さっくりペラペラ他人に話すなんて
まったく、何考えてるんだよ!!

 怒り心頭のあたいを笑いながら宥めながら、
「ま、そんなに責めないであげてくださいね。あの人には
しっかり改心してもらいましたから」とアメリアさんは言うが。

 いったいどういう手を使ったのだろう?

 あたいの顔に疑問が浮かんでいたのか。
 アメリアさんは、それはそれは楽しそうに種明かしをしてくれた。

 「それは簡単です。
 燃える正義の心を前面に押し出しながら評議長室に入るなり
 『心にやましい事があるなら今のうちに言いなさいっ!!』って、言っただけです」

 に、にこやか〜に言われても困るんですけど・・・?

 「・・・お前、さり気なーくセイルーン王家の印籠ちらつかせただろ?」

 ガウリイさんのつっこみに「ま、多少見えやすくはしましたが?」と
悪戯っぽく舌を出すアメリアさん。

 「そういうのはなぁ、脅迫って言うんだぞ?」

 ガウリイさんの更なる追及にアメリアさんはプイッ、とそっぽを向きながら
 「ガウリイさんにだけは言われたくないです。
 大体リナさんの前ではずっとクラゲの振りをしていた癖に、本当は人並みに
 頭が回るんじゃないですか」拗ねたように唇を尖らせてるし。

 「まぁ、リナと一緒の頃はそうする必要がなかっただけだからな」



 ・・・・・・・・・・。

 この二人はまるで、兄妹のように会話するんだ・・・。






 で、本題に移りますが、と。

 改めて話し始めたアメリアさんが言うには
 このままリナ姉がこの状況を続けるのは得策ではないので、
 自分としては一刻も早く止めさせたい、と。

 もちろん各方面からのちょっかいも気に掛かるけれど、
何よりリナさんの体調が心配なのだと。

 普段は多少距離があっても、自分の気配を察知出来ない筈がないのに
 今回はまったく気が付いた様子がない事、それとあの蒼白すぎる
顔色も気に掛かることだし、何とか気取られないように準備をして
一気に捕獲に掛かりたいのだと。

 「その為にも念入りな下準備と、あなたの協力が必要なんですっ!!」

 だむっ!!と勢い良くテーブルに足を乗せ、拳を突き上げつつ
ぐぐっ!!っと力を込めポーズのアメリアさんは、有無を言わせぬ迫力で。

 その迫力に飲まれちゃったあたいは反射的に
「わかった、協力する」って答えたのだった。
 
 
 



 
 それから念入りに作戦会議を繰り返し。

 「いいですか? チャンスは一回こっきりですっ!!
 リナさんを無傷で生け捕りにするって事は、魔王竜を生け捕りにするのと
同じ位の難易度レベルっ!!
 しかもリナさんの方が魔王竜なんかより知恵が回るだけに、
余計に性質が悪いんですっ。
 しかもしかも、今は殆ど手負いの獣状態という事で、いっそう無傷での
捕獲は困難だと思って間違いありません!!」

 アメリアさんって、皇女様のワリに何かが間違っているような・・・。

 「とにかくリナに直接会えれば力づくで・・・なぁ、だめか?」

 ガウリイさん、お願いだから暴走しないでってば。

 「ガウリイさんっ!! いきなりそんなショックを与えたら
リナさんがどうなるか 保証できませんからねっ!!」

 「そうだよ、リナねーちゃんはあんまり体調良くないんだ。
 いきなり驚かせたらショックで寝込んじまうって!!」

 あたいとアメリアさんの二人がかりで、
暴走寸前のガウリイさんを引き止めたりと結構忙しい。

 「あの〜。 僕はいつまでこのままで・・・?」

 「「「うるっさいっ!!!!!!」」」

 最後のは相変わらず結界の中に閉じ込めて(押し込めて)
あるアッサムの声。

 「す、すみませんっ!!! でも、いい加減僕の処遇を決めていただけたら
 嬉しいな〜とか思ってるんですけど・・・」

 ・・・ま、暇だわな。こいつも。

 ちなみにアッサムの奴は捕獲以来、ずっとリビングの隅っこに
結界ごと転がしてあったりする。

 何となく使い道がありそうなので、まだ自警団に突き出さないで
取ってあったりして(笑)

 時々暇をもてあましたガウリイさんが(ストレス解消か?)
棒で突っ突いたりしている成果か、以前の勢いは何処へやら。
 すっかり借りてきた猫のように大人しくなっちゃってるし。

 「そうよ!! これだわっ!!」

 いきなりアメリアさんが『だんっ!!』とテーブルの上に立ち上がって叫んだ。

 「今のリナさんはか弱いただの女性!! 
 間違っても呪文を使って騒ぎを起こすわけにも行かないんだわっ!!」

 「それがどうかしたの?」

 「なんだなんだ?」

 あたしとガウリイさんは、じ〜っとアメリアさんを見つめる。

 ついでにアッサムまで興味深げにこっち見てるし。

 「ですから、この状況を利用するんですっ!!
 イリーズさんがリナさんに攻撃呪文を習っていたのは!?」

 ハイッ!!と振られてあたいは「アッサムをボコボコにするため!!」と、即答。

 「それでは、悪人が前もってあなたを狙って来る時期をリナさんが知っていたら?」

 「そりゃ、リナねーちゃんの事だから、頼めば一緒に居てくれるだろうけど・・・」

 「はい、正解。 リナさんは結構お人よしですから」

 「・・・まさか」

 ふと、あたいの頭の中にも一つの作戦が浮かんだ。

 「・・・そのまさか、ですv
 材料は総て揃っている事ですし、ちょうど良いじゃあありませんか♪」
 すっごく嬉しそうにアメリアさんが説明を始めた。

 「いいですか? リナさんとガウリイさんの馴れ初めはですね。
 森の中で盗賊に囲まれていたリナさんをガウリイさんが助けに入ったのが最初。
 それをこの街で再現するんですよっ!!」

 「アメリア、まさか・・・」

 困惑顔のガウリイさんをアメリアさんはニコッと見つめて
 「そうですっ!! 名づけて
『愛の力は何者よりも強し。運命の出会い、もう一度!!』作戦ですっ!!
 イリーズさんとそこの悪人さんが協力して下されば、完璧な計画ですっ!!」

 ぐぐぐぐぐっっ!! と、握りこぶしを高く掲げてアメリアさんが叫ぶ。

 彼女の背景にメラメラと真っ赤に燃える炎が見えるのは気のせいか!?

 「で、具体的には?」

 ああっ、ガウリイさんまで乗り気!? 乗り気なのっ!?

 「イリーズさんとリナさんが街を歩いている所を襲う卑劣な悪人A!!」
 ビシィ!!と指を突きつけてアメリアさんが吼える。

 「・・それが、僕ですか」指差され、部屋の隅からアッサムがぼやき。

 「そこに颯爽と現れるのが、正義の使者ガウリイさんっ!!」

 「オレは別に正義とかどうでも良いんだが・・・」
ややげんなりとした表情を浮かべるガウリイさん。

 「今のリナさんは周囲に正体を知られる訳にも行かないから、
きっと派手に呪文を使って戦おうとはしませんっ。
 それに、急にガウリイさんが目の前に現れたら、ショックでパニックを起こす筈!!
 その隙を突いて一気に捕獲に掛かれば・・・ビクトリーですっ!!」

 いかにも自信満々げに言うけど、そんなにうまく行くものなのか!? 

 それにアッサムの野郎に言う事聞かせるのも・・・。

 「それを手伝ったら。今回の事、無かった事にしてもらえるかい?」
 いきなり結界の中からアッサムが手を上げて。

 「イリーズさん、ダメですか?」
アメリアさんが期待に満ちた目でこっち見てるし。

 「イリーズ、頼む」ガウリイさんも頭下げてるし・・・。

 ここで協力しないって言ったら、まるであたいの方が悪人みたいじゃないか。

 「わかった、わかったったら!! その代わり、アッサム!! 
 二度とこの街に足を踏み入れるんじゃないよ!!」

 アッサムを真正面から睨みつけてタンカを切ったら
「今更君に逆らうような恐ろしいまねできる訳ないだろ?
 君にはセイルーンの皇女様に魔王を倒したと言う二人までが
 味方に着いているんだから。 もし僕が君に何かしようものなら、
今度こそさっくりあの世行き・・・ですよね?」と、
最後の問いはガウリイさんに向けてだろう。

 ま、この様子ならこいつは二度とあたい達に近づこうとは思わないだろうから、
せいぜい利用するだけ利用して、縁を切る位で勘弁してやろう。

 「これで作戦は決まりですっ!!後は細かい所を詰めていって・・・」
アメリアさんは既にやる気満々、羊皮紙とペンを取り出して、
サラサラと計画を立てていく。

 「では、イリーズさんは呼び出し役でアッサムさんは悪漢役、
ガウリイさんが正義の使者で私は・・・。
う〜ん、活躍できそうな役がないです〜っ!!」
ペンを止めてアメリアさんが悩み出した時だった。

 今まで黙ったまま話を聞いていたじーちゃんがぽそっと言った。

 「リナさんの荷物はどうするかの? 
できればその日のうちに山から下ろしてしまいたいのぅ」

 「じーちゃんっ!!」

 と、いきなりアメリアさんが「それですっ!!」と叫んだ。

 「私はおじいさんと一緒にリナさんのおうちに先回りしておきますっ!! 
そしたらリナさんが万が一逃亡しそうになった時、
それを阻止する事ができますっ!! 
そうよ!!私は発案者兼工作部隊って事で、一つよろしくっ!!」と。

 それはそれは元気良さげに手を挙げたのだった。
 






 ・・・かくして、この一週間後。

 イリーズ&ガウリイ実行部隊に悪役ゲストにアッサムを迎え、
捕獲作戦工作部隊に発案者も兼ねたアメリアさんと
小屋の持ち主じーちゃんを加えて実行に移された、
呼称『リナ=インバース捕獲作戦』

 サブタイトル『愛の力は何者よりも強し!!運命の出会い、もう一度!!』が発動し。

 そしてそれは無事、大成功を収めたのであった。