「ね、ガウリイ」

そわそわと落ち着きのない態度のリナを見て、オレは腹の内でほくそえむ。
時刻は夜、ここは宿屋でオレ達は借りた部屋の中で二人きり。

食事は済ませた、風呂も入った、明日の予定も話し合ったし荷物の整理も終わってる。
つまり、あとは寝るだけという頃合だ。


もちろんリナの悪い趣味が出なければの話だが、そこら辺の対抗策は済んでいる。証拠は・・・部屋の角に転がしてある、まるまると膨らんだリナの荷物袋だな。



一昨日昨日と2夜連続で近隣の野盗に山賊、ついでに街のごろつきどもとじゃれあって。
(当人達には不本意な出来事だと思うが、リナの手による容赦ない攻撃とオレの誠意溢れる説得の効果が出たのか、はたまた命ばかりは助かりたいと思ったのか)
とにかく二人の幸せと自分達の命を守るために幸せの為にいろんなものを諦めてくれたらしく、奴らは自ら揃って役人達にしょっ引かれていった。

もちろん彼らの持っていたお宝は持ち主が判明した一部の品を除いてリナの収穫物となっている。
こんな状況下でのリナの機嫌はいい。すこぶるいい。

さっきから機嫌よさそうな鼻歌なんかが飛び出して、無防備すぎる笑顔を惜しげもなく見せていて、思わず押し倒したくなって仕方がなくなっても仕方がないと思わないか?

あー、そこ。

引かないでくれよな、頼むから。

とにかく、オレ達の邪魔する奴らは纏めて取り除いたし、リナの機嫌はすこぶるいい。

更にこの部屋は二人部屋でしかもベッドは一つきり。
サイズがダブルやセミダブルではなく、何て名前かは知らんが大人4人が並んで眠れるサイズってのだけは気に入らんが、広い分あんなことやこんなことでドタバタやっても大丈夫という利点を考えれば悪いことばかりでもない。

そうだ、ベッドヘッドの辺りにクッションを並べておかないと。
縋ったり顔を埋めたりするリナの姿を思い浮かべるだけで・・・。

「ガウリイ? なんか怪しいんだけど・・・」

距離をとろうとするリナの手を捕まえて、すべらかな手の甲に口付けをひとつ。

ひくりと震えるその手指に口付けを重ねて、ほっそりとした指を口に含んで、それから舌でなめまわす。ずっと欲していた肌に触れる幸福に、舌先からじわりとシビレにも似た快感が広がっていく。

こんなとこまで敏感なのか、可愛いなぁリナは。真っ赤な顔で震えちまって。

大丈夫、全部オレに任せておけって。

ほら、そんなに潤んだ瞳で見つめられちゃあ自制心も崩れちまうぜ。

恥ずかしがらなくてもいいんだぜ? お前さんはすごく綺麗だ。

隠さないで全部オレに見せてくれよ。ああ、どこもかしこも全部美味いし綺麗だなぁ。

癖になっちまいそうだ、リナの肌触りも味も、色っぽく喘ぐ表情も。



「ガウリイ? ね、もうあたし・・・」

「ああ、リナ、リナ……」











恍惚とした表情で枕を抱いて転がっているガウリイを見物しながら、
あたしはのんびりと本を手に寛いでいた。

あ、なんか意味ありげな息吐いたわね。

・・・ふぅ。って。

急に爽やかないい笑顔になっちゃってまぁ。

あれが噂に聞いたことがある賢者タイムって奴なのかな。

スッキリしたのか、それとも悟りを開いたのかを聞いてみたい気もするけど、今ちょっかいをかけちゃったらやぶへびつっつくことになるって分かってるからやらないんだ。

数日前からやけにガウリイが協力的だな、とは思ってたけど。
宿の部屋に入った瞬間、嫌でも理解しちゃったわよ!

で、たまたまガウリイがお風呂に出かけてる間に手持ちの薬草の調合をして、
たまたま作業のあとに手を洗うのを忘れていて、
たまたまガウリイが薬のついた手を嘗め回して。

薬が回ってガウリイ一人で都合のいい夢を見ながら妄想世界にトリップしちゃってる。
それを呆れながら眺めるあたし。ってのが今置かれている状況で。

うーん、ガウリイの事が嫌いなわけじゃないんだけどさ。
こうも逃げ場を潰されちゃうと逃げたくなるのが乙女心?

ロマンチックなお膳立てなら嫌いじゃないけど、露骨な罠はノーサンキュ。
まだ言ってないけど。
ベッドはね、密着しなくちゃ落ちちゃうようなのが好みなのよ?

さて、次に勇気を出してくれるのはいつの事やら。
一人可愛くあーだこーだと身悶えるガウリイ君の観察を続けながら、
あたしは小さな欠伸をかみ殺した。