今夜もガウリイがお休みのキスをくれる。
 額に、こめかみに、頬に、鼻先に、そして最後は唇に重ねるだけの口付けをして「お休み、リナ」の言葉と一緒に柔らかく頭を撫でてくれるんだ。
 あたしはそれが嬉しくて心地よくていつしか夜の訪れを待ち遠しく思うようになっていたんだけど。

 ある日、気付いた。
 ガウリイにしてもらうばかりで、あたしから彼にキスを返した事があったろうか、と。

 そうだ、最初はその行為自体が恥ずかしくて照れ臭くて緊張したまま思いっきり目を閉じて、それでも逃げ出すのはイヤで完全に受身でいたんだった。
 そんでもって、そんなあたしをガウリイが可愛いって言ったからって、一方的にかわいがられる事に甘んじてた。
 愛される心地よさに浸ってた、与えられる愛情に身を任せてるだけだった。
 もちろんガウリイだってそうしたいからしているんだろうし、実際いつも嬉しそうに唇を寄せてくる。
 あたしはそれを拒むでもなく迎え入れるでもなくされるがままにじっとして受け入れてた。



 「もう寝るか?」
 コツコツとドアがノックされて、返事を待たずに開いたドアの向こうからガウリイが姿を見せる。
 「ん、これが終わったらね」
 ろくすっぽ目も通していない本を示して笑顔を向けると、ほんのりだけどガウリイの頬が赤らんだのがわかった。
 うん、そうよね。
 愛されて嬉しくない奴なんていない。

 ガウリイ、と、やや甘ったれた声で彼を呼び寄せ、ちょいちょいっと屈みこむようジェスチャをしてみせる。
 「ん?」
 こてんっと首を傾げつつ素直に従ってくれるとことか、すごく好きよ。
 「ねぇ」
 両腕を伸ばして彼の首に回して、そのままおでこに口付けを。
 すべらかな肌の感触が唇に心地いい。



 「お、おお!?」
 目を見開いて慌てるガウリイに、シッ、と囁いて今度は左の頬、それから右に、鼻先にキスをする。ぺろりと舌を出すとガウリイの肌の味がして、息を吸い込むとガウリイの匂いがして、胸の奥がきゅんと疼く。
 ああ、愛しいってこういうものか。
 だからいくらでもしたくなるのか。

 唇同士が触れ合う距離でおやすみを告げて、引き寄せられるまま唇を重ねた。
 ふにゅんと、もっとも柔らかな部分に触れる快感と、彼に何かを与えられたかもしれないという満足感にあたたかな何かが心の中に満ちていく。
 ちゅ、と音を立てて離した唇は、またすぐに重なり合った。

 いつのまにやら腰に回った腕が強い力であたしを抱き寄せて、逃がさないと主張している。
 「寝ないの?」
 「寝るさ、リナと一緒に」
 幾度も幾度も重ねては離し、離れては触れ合わせる戯れのようなキスに、徐々に熱が篭り始める。

 ガウリイに身体を預けると、背中と膝裏を攫うようにして抱き上げられた。

 「じゃあ、今夜はオレのとこで」ちゅっ、と、唇と一緒に落ちてきたのは男臭い笑みと欲を孕んだ眼差しで。「お手柔らかに」それだけ言って、あたしは熱く火照る頬を彼の胸に擦り付けて隠した。