小ネタで申し訳ありません。

「ひげ」







 「リ〜ナ♪」
 あたしが本を読んでるってのに、一向に構いもせずに
 背後から、奴はちょっかいをかけてくる。
 「リナ〜っ、オレ、退屈だ〜っ」
 いきなりガバッと抱きついてきたっ!!
 「おーもーいーっ!!」
 くんくん。
 「リナはいい匂いがするなぁ」って、何言ってんのよっ!!
 「やーめーれーっ!」
 ジタバタ足掻いて脱出を試みるも、でっかい身体に押さえつけられては
 身動きすら取れなくて。
 いわゆる『恋人』と、呼ばれる関係になってから、宿は一部屋しか
 取らなくなった。それはまぁ、いいんだけど。
 「そろそろ寝ようぜ〜」って、人の頬にスリスリしてくるな〜っ!
 って。
 「ねえ、ガウリイ」
 「なんだ?」
 ふと、疑問に思った事を聞いてみる。
 「ガウリイってさぁ、あんまり、髭生えないの?」
 実家のとうちゃんも結構薄い方だったけど、それでもほっぺスリスリ
 された時にはちょっと痛かった覚えがあるのだが。
 ガウリイとそういう事をした時に『痛い』と思った事がない。
 「う〜ん」
 いきなりこんな事を聞かれるとは思っていなかったのだろう。
 しばし考えてから「まぁ、オレはどちらかと言えば薄い部類に入るんじゃないか?」と。
 「でも、全然生えないって事もないんでしょ?」
 「まぁ、少しは生えるけど・・・」
 「なら、何で痛くないのよ」
 「そりゃ・・・」
 そこでガウリイはにやりと笑い。
 「リナに痛い思いをさせないように、ちゃんと処理してるからだ♪」って。
 さらにスリスリと頬を寄せながら、さり気なく手が怪しい動きを始めてたり。
 「ちょ、ちょっと、もう少しキリのいいとこまで・・・」
 あたしの訴えをサラッと無視して
 「今がキリのいいときだろ」と決め付けて。
 あたしの手にあった本を取り上げて、そっとナイトテーブルの上に置き。
 そのままベッドに引きずり込んでくれたのだ・・・・・・。




 「ねぇ・・・」
 「なんだ?」
 朝日の中でじっくりと眺めてみたガウリイの顔に、一本、細い髭を発見。
 「やっぱり、朝になったら生えるのね」
 まだ短いそれを指先で『ツン』と突ついてやる。
 「ああ、生えてるか?」とあたしが突ついた所を探って、
彼の指先がそれを見つけ出した瞬間。
 ぷち。
 「って。 これで大丈夫」と。
 ガウリイったら爪先で抜いてしまったのだ。
 「・・・痛くないの?」
 抜いた場所からはほんのり血が滲んでいたけど。
 「たまに痛い事もあるけど、もう慣れた」
 そう言って、ニコッと笑って、キスをしてくれた。



 もう一回寝直してる彼を見つめて
 「そんな所まで過保護にしなくてもいいのよ」と
 鼻を摘んでやったら。
 「ふごっ」と間抜けな声を上げた。
 そんな、いつまでも保護者癖の抜けないあんたも。
好きだよ、ガウリイ。
 










おまけ・・・と書いて後日談。


野宿中、あたしは信じられない光景を目の当たりにした!!
あたしの仮眠中、いつもは焚き火の前に座ってうたた寝をしている
ガウリイが。
ガウリイがっ!!
自分の首筋に、あろう事か斬妖剣をあてがっているっ!!
なぜ?と思う間もなく身体が動いていた。
かけてあった毛布を蹴散らし、ガウリイに向かって猛ダッシュ!!
「だめ〜っ!! 何があったか知らないけど早まるんじゃないわよ!!」と
後ろから『がしぃぃぃっ』と羽交い絞めにしたらば。
「うおっ、リナ!! 危ないじゃないか!!」と、
焦った声が返って来た。
「ほへっ?」
「おまえなぁ、人が刃物を持ってるときに驚かしてはいけません、って
習わなかったのか?」
そういう彼の表情は、ちょっとしかめてはいるが普段通りの表情で。
「・・・ガウリイ。 じゃ、あれは世を儚んで・・・とかじゃないの?」
状況を飲み込めないあたしにガウリイはしばらく考えた後
「ああ、誤解されちまったか」と言って、剣の刃先を見せてくれた。
そこには細かな金色の点々が・・・・。
「これって?」ま、まさか。
「 いや〜、見張りしてるのも退屈だったから、つい顔のお手入れを、とな」
そう言いながら、再び斬妖剣を両手で支えて・・・。
ちょり。
ちょり。
微かな音を立てながら、まばらに生えた髭?を剃り落としていく。
しばらく無言で見つめるあたしを放って、彼は最後まで作業を続け。
「これでよしっ」と、満足そうにあごをさすった。


しばし呆然としていたあたしは。
・・・寝よ。

再び横になって、目を閉じたのだった。

「やっぱりこいつが切れ味抜群なんだよな〜。
でっかいから多少扱いにくいけど、一回剃ると3日は持つからなぁ」
後ろからは、能天気な声。
伝説の魔剣と歌われたあの剣で、あんな事をする奴って
世界広しと言えども、ガウリイだけではなかろうか・・・。