てるてるぼうず





 照る照る坊主、照る坊主。

 明日天気にしておくれ。



 安宿の窓から眺める風景は、雨模様。

 シトシト静かに降る雨は、旅を続けるあたし達にとってはあまり嬉しくない物で。

 見た瞬間に出発の延期を決めるほどキツイ雨脚でもなく、この位ならと強行するほど
 弱くもなく。

 朝起きて、しばらく雨を眺めた結果。

 「今日の出発は取り止め、明日以降天候が回復次第出発の事」と、様子を伺いに来た
 相棒に伝えて「あたしはしばらく読書でもしてるから、邪魔しないでね」と。

 とりあえず食堂で朝食を平らげてから一人部屋に篭ってパラパラとページを捲る。

 「・・・もう内容、覚えちゃってるんだけどね」

 誰に聞かせるでもない呟き。

 しばらく無為にページを繰る事を続けた後。

 あたしは本を片付けて、手持ちのお菓子を摘みながらただボンヤリと外を眺めていた。
 



 ・・・・・・てるてるぼうず、てるぼうず。
 
 何か、昔を思い出す。

 ・・・・・・あーしたてんきにしておくれ。




 あたしがまだちっちゃかった時の事。

 ご近所が寄り集まって遠足に行こうと計画したその前日。

 その日もこんな風に雨が降っていて。

 『あーあ。 遠足、中止かなぁ』
 窓を眺めてぼやいたあたしに『なら、あんたの得意の魔法で何とかすれば良いじゃない』
 言ったのはねーちゃんだったっけ。

 『いくらなんでもそんな事できないも〜ん』そんな事ができたら悪天候の度に、ご近所の
 農家の皆さんにもの凄く重宝されちゃうじゃないの。

 まぁ、それはそれで良いバイトになるかもしれないけどさ。

 『何だ、やっぱり無理なのね』

対して期待はしてなかったけど、とねーちゃんはスタスタ
 自分の部屋に戻っていったっけ。

 『リナ、あんた暇ならこれでも作りなさいよ』

 しばらくしてねーちゃんが持ってきたのは、紙を丸めてその上からラッピングの様に紙を
 重ねてくくった簡単なつくりの人形。

 人形、と言っても差し支えないのかどうかも疑問なほどデフォルメされたそれを
 あたしの目の前でふりふりしながら
『前に聞いた事があるんだけど、遠い国ではこれを使って
お天気祈願をするんですって』
ほら、明日出掛けたいのならさっさと作る!!

 ポイッ、とそれをあたしに投げ渡すとそのままどこかに出かけていったっけ。

 『・・・こんなもんで、本当にお天気になるの?』

 やや疑問に思わなくもなかったけど、ねーちゃんがくれた物だし粗末な扱いはできないし。

 『ま、物は試し、作ってみよう』

 その後、いらない紙をかーちゃんに貰っていくつもいくつも同じ物を作ったっけ。

 夕方、ねーちゃんが帰ってきてみんなで夕食を食べてる時に
『リナ、あんたアレ作ったの?』って。

 ふと指差された先には沢山作ったてるてるぼうず。

 『うん。 でも、アレってあのままおいといていいの?』

 『いいえ、アレはこうやって・・・』





 次の日は、見事な快晴。

 出かけようと外に出たあたしを見送ってくれたのは。

 紐で結ばれ、まるでネックレスのように繋がって窓辺に吊るされた沢山のてるてるぼうず。

 もっとも、旅に出てからてるてるぼうずの正しい吊るし方も知ったのだけど。

 どうしても、あたしはねーちゃんから教わったやり方で吊るすのが好きで。

 「ま、いっちょ作りますか」

 いらない紙を丸めて、子どもの頃より手際良く。

 いくつか小さなてるてるぼうずを作って、窓の所に飾った。





 「おっ、リナ。えらく懐かしい物を知ってるなぁ」
 夕食の後、退屈だからとあたしの部屋に転がり込んできたガウリイが言う。

 「いいでしょ? たまには童心に返るのもいいかと思ってね」

 ガウリイもこれ、知ってたんだ。
 思わぬ共通点に、何だかちょっと嬉しくなってしまう。

 「でもさ、オレの住んでた所じゃ一個ずつ吊るしたと思うんだが?」

 ホラホラ、そんな不思議そうな顔しなさんなって。

 「あれはあたしの家のやり方なのよ」

 こんな雨の日でも、楽しく過ごした懐かしい思い出を呼び起こすために必要なもの。

 「何か、キャンディーネックレスみたいにも見えるな」

 何処か懐かしげにてるてるぼうずを眺めるガウリイを見つめながら
 「なら、これ食べる?」と、あたしが差し出したのは。

 「おっ!!」

 これまた懐かしい金色の紐に繋ぎとめられた色とりどりの飴玉たち。

 「そうそう、これこれ」
一個貰うな、と断ってからガウリイが選んだのは、真っ赤な飴玉。

 「ガウリイは苺味が好きなの?」

 「うんにゃ。これってリナの瞳の色とおんなじだから選んだんだ」

 ・・・・・おひ。

 「なら、あたしは・・・」

 照れ隠しにわざと大きな声を上げて、沢山ある飴玉から一つ選んだのは。

 「リナは薄荷が好きなのか?」

 「まーね」

 ガウリイの瞳とよく似た水色の飴玉だった。





 翌日は、気持ちの良い快晴!!

 「さ、行くわよ。 ガウリイっ!!」

 「おうっ!!」

 再び旅の空に戻ったあたし達を見送ってくれたのは。

 沢山吊るされたてるてるぼうず達と、更にその中でひときわ目立つ
 おっきめのてるてるぼうずとすぐ横に繋がった小さ目のてるてるぼうず、だったりする。