雨の降る日はつまらなくて嫌い。

立ち寄っているのが小さな町とか村だったりすると図書館も魔道士協会もないから
時間の潰しようもない。第一濡れてまで外に出る理由を見出せないから
必然的に宿の中にこもりっきりになる。

一番良くやるのが荷物の整理。

他にやる事がないのならいつもより丁寧に。

油紙に包んだ薬草やら携帯食料の品質をチェックして、それから装備の点検。

服や荷物袋に綻びがないか調べて見つけたら補修して。

それからまだ換金していないお宝さん達をもう一度鑑定しなおしたり。

そんな事を全部やってしまうと、もうする事もなくなっちゃうから大抵ベッドに転がって
のんきなお昼寝タイムを決め込んじゃう。

隣室にいる相棒はどうしてるんだろう?って気になる時もあるけど
大抵同じ様な事をしているか、違うとすれば筋トレしてるんじゃないかって所かな。

ウ〜ン、自分の能力を落とさないように鍛錬するってのなら、あたしの場合は
新しい魔法を開発するのもいいかもしれないわね。

眠気にとろとろとまどろみながら、あたしの意識は段々薄れていって
いつしか眠りの闇の中に落ち込んでいった。








目を覚ました時、既に外は真っ暗になっていてお腹はグーグーと抗議の声を上げている。

しまった、こんな真夜中じゃあ食堂も閉まっちゃってる。

遅めにお昼を食べたのがまずかった・・・。

ガウリイったら起こしてくれればよかったのに!!

自分が起きなかったんだし自業自得といえばそうなんだけど。

まぁ、そろそろ交換時期の来ていた携帯食料で飢えをしのごうっと。

昼にかばんから出しておいた干し肉を齧り、ドライフルーツとナッツでデザート代わり。

それほど美味しいとは思わないけど一応空腹だけは満たして。

空になった油紙を丁寧にたたんでかばんの隅にしまった。





インスピレーションはいつも突然。

それに導かれるまま、スッと部屋の中央に立って。

両手を軽く広げて、頭の中でイメージを集中させる。

それから夢の中で構成した呪文を、唱えて・・・。






部屋の中は星の海。



小さな光が煌めき流れて狭い空間を所狭しと埋め尽くす。

ごうごうと音を立てながら光の粒子があたしを中心にしてグルグルと
まるで取り囲むように巡り出した。

金色

雲母

水晶

美しくて儚い命。

あたし達は普段気がついていないだけで、混沌の海に浮かぶ
こんな風に狭い空間の、更に小さな領域だけで生きている。

旅に出てからいろんな場所を巡ったつもりだけど、
まだまだあたしの知らない場所はたくさんあって
これからもっと、いろんなものと出会えると信じたい。

光を全身に浴びながら、思考という名のもう一つの海に沈む。

思いが千里を走るというなら・・・!!

一瞬、浮かんだ願いを。

あたしは無理やり意識の海に閉じ込めた。

呪文が不完全だったのか、徐々に光の粒が消えていく。

ゆるゆると余韻を残して魔法が解けると、部屋はまた、只の暗闇に戻り。
あたしもいつものあたしに戻っていく。







あれからずっと。

恐れている事がある。

あの後、あたしはまだこの世界に存在しているけれど。

それは紛い物ではないのかと。

あたしはアレの懐に抱かれたまま、まどろみに包まれながら
ただたた夢を紡いでいるだけじゃないのかって。

自分に都合の良いように、世界を紡いでいるんじゃないかって。




さっき、目の前でクルクルと踊った光る微粒子。

その一粒こそあたし自身だったかもしれないのに。

冷たくなった肩を抱いて。

あたしはそのままうずくまったまま一人。

ひっそりと、泣いた。