ぷりくらガウリナ







とある街であたし達は珍しいものを見つけた。

それは撮影した対象を紙にそっくりそのまま写し取るという機械。
似顔絵のように書き手の技量に左右されることもなく、見たままを印画できると
いうのも驚きだが、何よりその料金が破格だというのにも驚いた。
子供でも数日お小遣いを貯めれば簡単に利用できるという。

お店のおねーさんは「観光の記念に一枚いかがですか?」と
見事な営業スマイルを浮かべて微笑んだ。



「これって、そうとう高度な技術じゃないの? なのにこんなに格安で、
こんな街中に設置しちゃって大丈夫なの?不埒な輩に盗まれたりとかは?」

「利用されるのならこちらへどうぞ」と手招きされて、
ついフラフラとあたし達は店に入っちゃったあたしは好奇心丸出しで
思った事を質問してみる。企業秘密だって言われたらそれまでだけど。

「あ、はい。これ、ここから動かすと使えなくなっちゃうので盗んでも
全然意味がないんです。父が偶然組み上げた機械なので
いつ使えなくなるかも判らない不安定さもあって、いっそ使えるうちに
皆さんに楽しんでいただいた方がいいなって。
さ、そこのカーテンをくぐってくださいね」

ぶしつけな質問にも、拍子抜けするようにあっさり答えてくれた
おねーさんに案内されるがまま、真っ黒なカーテンをくぐると。

床に置かれた箱の中にはカラフルな額縁?がいくつも立てて置かれていて
正面には木の台にはめ込まれた大きめのガラスとオーブ、
下の方には幾つかのボタンと取り出し口のような穴がある。

「ここで好きなフレームを選んでくださいね。 
ああ、それでいかれますか、ならこうして・・・」

きゅりきゅりっと、手に取ったフレームを横の壁に固定して
あたし達と木の台の間に浮かせる。
高さはちょうど頭から胸下位が収まる位置。

「こうすると出来上がった時に可愛く仕上がるんですよ♪ 
では、お二人もっと近づいて・・・そう、もっとです」

「こ、こうか?」

うきゃっ!! ガウリイの顔がめたくそ近くに来てる。

「そうです。さ、もっと近寄ってくださらないと綺麗に収まりませんよ?」

そう言われて慌ててガウリイに近づく。
膝を曲げて顔の位置を合わせてくれるのはいいんだけど、すごく照れるんですけど。

頬が赤くなってる自覚を持ちつつ、ピースサインを出してにっこり笑ってみた。
すぐ横のガウリイの顔は正面を向いているので見えないけど、きっと笑ってる。
金色の髪があたしの左目のあたりにかかって、ちょっとくすぐったいし。

「じゃあ、撮りますよ。 にっこりと笑って〜はい、ポーズっ!!」

パシャッ。

眩い光が一瞬走り、すぐに消えた。



「はいっ、お疲れ様でした♪ すぐに出来上がりますからこちらでお待ちくださいね」
おねーさんはパタパタと機械の裏側に回ってなにやら操作しだした。

それを横目で見ながらカーテンをくぐり、隅に置かれている椅子に座る。
本当にあれだけの動作で見たままの姿を写し取れるとしたら、すごい技術だと思う。
魔道士協会はこの事知ってるんだろうか・・。

「なあ、リナぁ」

急に呼ばれて顔を上げるとガウリイがカウンターの前でコイコイと手招きしてる。
「何よ?」
トコトコとそっちに行くと「なあ、これってなんだ?」と何かを指差してるし。
「これって?」
「それは「プリクラ」を加工して作ったアクセサリーですよ♪」
最後の声は機械の方から戻ってきたおねーさん。

「はい、できました。どうぞ」
手渡された紙には小さく、でもちゃんと綺麗にあたしとガウリイが写っていた。
まるで切手のように同じ絵が4枚、紙の上で笑っている。

「すごいわね、これ!! 本当に銅貨20枚でいいの?」
後から追加で銀貨10枚とか言われたらどうしようか、と思うほど
良い出来の「プリクラ」。
やっぱり頬が赤くなってるあたしと澄ました笑顔のガウリイが
イラストの額縁の中に納まってる。

ええ、気に入ったいただけたら嬉しいです、そう微笑みながら
おねーさんの手はカウンター上のアクセサリーを取って。

「プリクラは、所詮紙でできてますから何かあったらすぐに破れちゃいます。 
それを回避する為にはこうやって金属製のアクセサリーとか
、ジュエルズタリスマンの中に封じ込めるといいんですよ♪
あっ、こっちのペンダントは金貨1枚、こっちのブレスレットは銀貨20枚、
手鏡の背に加工したタリスマンは金貨50枚です!!」

な、なるほど。この「プリクラ」はあくまで客寄せで、
こっちのアクセサリーを買わせるのが主目的か。

「って、そこまで値の張る品物は中々手が出ないでしょうから
こちらにお手軽なのも用意してますよ。見るだけ見て行って下さいね」

そっちを見ると、先に出された商品よりは明らかに安物だとわかる、
キーホルダーとかがぶら下げられていた。
「こっちは一律銀貨一枚です♪ 子供たちが「俺らにも買えるの作ってくれ」って
言うもんだから作ったんです。
迷子札にピッタリだとお買い求めになる方もいらっしゃいますよ」

チャラチャラと軽い音を立てる飾りを弄んでいたあたしはピクッと。

「裏に名前を彫っておくとどこの誰だかすぐに判ると評判で」

「おお、いいなぁ♪」
のんきにお揃いの飾りを眺めてるガウリイ。

「それ、一つ作ってちょうだい。 
そしたらガウリイ、あんたそれを肌身離さずつけてるのよ!!」

「買ってくれるのか!?」
「お買い上げありがとうございます!!」
反応は同時に返ってきた。

「そ。これならガウリイが迷子になっても大丈夫でしょ? 
もしはぐれたらこれ持って手近な魔道士協会に駆け込むのよ。
あたしに連絡してくれるように書いとくから」

「なんだ、迷子札か・・・」何故そこでガッカリするか、ガウリイ。

「でしたら早速加工しましょう♪ こちらのデザインは・・・」
交渉を始めようとした時だった。

ガラッ!! 
「すみません、こちらにリナ=インバースさんはいらっしゃるでしょうか?」
急に駆け込んできたのはここに来る前寄った協会の受付の人・・・だったっけ?

「ああっ、リナさんですね。評議長が至急あなたにお会いしたいとの事で。
申し訳ないですが一緒に来ていただけますか? 
ちょっと内密な話だと
最後は小声で囁いた彼に、あたしは仕方なく頷いた。

「ガウリイ!! ちょっとあたしこの人と協会に行ってるからそれ、作ってもらっとくのよ! 
ほら、お金!!」

あたしは皮袋から銀貨を数枚出してガウリイに握らせて、
そのまま協会に向かったのだった。

だから。


「あら、彼女行っちゃいましたね〜」

「ああ、リナはああなったら止まらんからな〜。 んで、これは幾らなんだ?」

「ふふっ、これは人気商品ですよ。特に若い娘さんに好評なんです♪」

「なら、これで作ってくれるか? あいつがいる前でこれを選んだら照れて
呪文で吹っ飛ばされちまう所だったよ。
ちょうどいいタイミングで人が来たよな」

「渡りに船、って奴ですね。 じゃ、彼女が帰ってこないうちに加工しちゃいましょうか」

「ああ、頼む」





しばらくして協会に来たガウリイに渡されたのは歪んだ形の飾りだった。

「なんでこんな形のを選んだのよ?」

「ん、それが一番絵が綺麗に収まるって言われたから」

「あ〜、ならいいわ。でも、なんであんたの絵の奴をあたしが持つの?」

「そうしてたら「こいつが相棒です」って説明できるだろうって」




後日、それがガウリイのとあわせるとハート型vvvになる事を知ったあたしは、
呪文をお見舞いするか飾りを抹消するか迷ったんだけど。

あんまりにも綺麗に笑ったガウリイの絵を砕く事ができなくて、
気がつかなかった事にしたのはあいつにも秘密だ。

荷物を入れる袋の内側にこっそりつけてる事も。