手持ちの路銀が少ない時。
最寄の街でリナが仕事を見つけてくる。

それはまぁ、ありふれた日常ってやつだったんだが。

今回リナが受けてきた仕事は、完全に予想外のものだった。

内容を聞いた瞬間、ゼルは沈黙し。

アメリアは「それ、楽しそうですね♪」とやる気満々。

そしてオレはというと「リナ、お前ケーキなんぞ焼けるのか?」と本気で聞いて
思いっきりスリッパでどつかれた。



「だいたい、素人が気軽に受けて仕事になるのか?」



心底嫌そうな顔でリナに聞くゼルに対して、
「ごちゃごちゃ言ってないで、あたし達にできる事はなんでもやるのよ!!
何が何でも路銀を稼がなきゃ今夜はこの寒空に野宿だし、
口入れ屋にはこの仕事以外まともなのがなかったんだから!!」

リナもまた、半ばやけくそ気味に叫んだのだった。







「まぁ、こんな平和そうな街じゃあ傭兵とか黒魔道士は必要ないですね」

そう言いながらチョキンと、鋏でピンクのリボンを決められた長さに切っているのは、
これまたピンク色の制服の上から白いエプロンをつけたアメリア。

なかなか似合ってはいるんだが、一応本物のお姫様がこんな所で
気軽にバイトしてていいのか? とか、ちょっと思ったりする。

ゼルとリナは「あんたなかなか筋がいいな! おまけに身体が岩だから
体温低くてパイ生地を扱うにはもってこいだよ!!」だの
「君みたいな娘が流しの魔道士やってるなんてもったいないよ! 
これだけの腕があればどこでも即戦力間違いなしだ!!」だのと
褒めちぎられて、奥の工房でクリスマスケーキの製作を手伝っている。

実はアメリアも当初は工房を手伝っていたのだが。

「生クリームを泡立ててくれ」と頼まれて
「はいっ、力の限り頑張ります」と、
その言葉通りに、彼女なりの一生懸命で張り切りすぎた結果。

「・・・すみませ〜ん」

「もうここはいいから。 ・・・君は売り子に回って」

力一杯ひたすら生クリームをかき混ぜ続けて
でっかいボール一杯の生クリームを水分とバターに分離させてしまったのだ。

ちなみに今オレがいるこの場所は工房の隅っこ、通用口の脇。

リナ達とはかなり離れた寒い場所でひたすら苺のヘタ取りに勤しんでいる。

だいたい、最初っからオレだけ扱いが違ったんだよな。

最初に使えと手渡された包丁は、どうも切れ味がいまいちだったから
ちょっと手持ちの砥石で砥いでただけだったんだが。

それを見た店長に「切れ味が気に食わないなら、これ全部頼むよ」と、
有無を言わさず工房中のナイフや包丁を研がされたり。

「ちょっとこっちの粉の袋を倉庫に運んどいてくれ」って言うから
その通りにしたのに、仕事が終わった途端「やっぱり元に戻して」とか言うし。

ゴミ捨てを言いつけられて、街の共同集積所まで往復3回走らされて
戻ったら、「回収日は明日だったよ。悪いけど取りに戻って」と言われる始末。

とにかくひたすら雑用ばかりを言いつけられるんだよな。

しかも、なぜかオレが一人の時を見計らって言うから
「ガウリイ、ちゃんと仕事してよね!」ってリナに誤解されるし。

ヘタ取りがやっと終わったと思ったら、
「とにかくこっちの邪魔にならないように、隅でやってくれ」だとさ。

山ほどの苺やらスポンジケーキやらをどんどん追加されつつ、
言われるがままに食材を切っていく。 

まぁ、オレはリナやゼルみたいに器用じゃないから、
こういう仕事ばかりなのもしょうがないのかも知れんがなぁ。

どうも自分だけ邪険にされている気がしてならない。

これが噂に聞く、被害妄想とかいう奴なのか?

ふと、顔を上げて奥にいるリナの方に視線をやると、
「いや〜最初、流れの人間を雇うのは心配だったんだけどね。
正直これだけ使えるとは思ってなかったよ!!」と、
絞り袋を握りしめつつ、ここの店長兼パティシエのグリーンが
ホクホク顔でリナに引っつきながら話しかけている。

「こちらこそ仕事にありつけたばかりか、泊まる場所まで
提供していただいて本当に助かりましたv」

ぶりっ子な口調で可愛らしく答えるリナは、白いコックコートが良く似合っている。
が、その手は回転台の上のケーキにパレットナイフとやらで
生クリームを塗り広げている真っ最中。

「今夜までにあと150個作らないといけないんだよな〜。
この稼ぎ時にうちの職人が風邪引いて起き上がれないだの、
ぎっくり腰になっちまっただのでみんな来れなくなっちゃってね。
それぞれ事情が事情だけに「這ってでも来い!!」とは言えなくてさぁ。
しかし、悪いタイミングって重なるもんだよなぁ」

ワザとらしくがっくりと肩を落として見せながら、
ひたすら生クリームを絞り続ける店長。

「あたし達もできる事は一生懸命頑張りますから、ね? 
とにかく今日を乗り切っちゃいましょ!」
明るい口調で励ますリナに、店長は嬉しそうに笑いながら
「営業が無事に済んだらお給金に色つけるからさ、頑張ってくれよ!!」
馴れ馴れしくポンポンっと、リナの背中を叩いたりする。

おい、どさくさに紛れてリナに触るんじゃない!

「は〜い、がんばりま〜す♪」

リナもリナだ、そんな奴にうれしそうに笑うなよな〜。






オレの気持ちも知らずに、リナは手際良く仕事をこなしていく。

それはいい事なんだろうが、お蔭でオレは朝から殆どリナと会話していない。

材料を取りに来るゼルやアメリアとはまだ話す機会はあるのになぁ。

どうも故意にリナから遠ざけられている気がしてならない。

昼飯も交代で食べに行かされて、リナと一緒に食えなかったし。
食ったって言っても、冷えかけた作り置きのシチューとパンだけだったし。







「・・・おい、ガウリイ」

気がつくと、傍にゼルガディスが立っていた。

「『この苺も全部切ってくれ』だそうだ。 
それが終わったら、教えるからショートケーキのカット作業も頼むとさ」

ドサリと追加される苺の詰まった木箱。

・・・軽く、15箱はあるんじゃないか?

「オレ、ケーキってもっと・・・こう、女の人が楽しそうに作るもんだと思ってた」

5分だけ休憩だと、作業を続けるオレの横に座り込んだゼルについ、愚痴を零すと
「まぁな。実際の所、こういう仕事はけっこうな肉体労働だからな。
趣味の範囲ならともかく、仕事としてはまず体力が必要だから
男の方が職人には多いんだろう」と。

しばらくして、ゼルは疲れた顔でトントンと肩を叩きながら
「さて、俺はそろそろ作業に戻るが。旦那、事あるごとに
雇い主を一々睨みつけるのは止めておけ。さっきからリナが気にしてたぞ。
それに確かに奴はやたらとリナに近づいているようだが、
何があろうがリナならうまい事やるだろうから心配いらんさ」
言うだけ言うと、ゼルは工房に戻っていった。

「まぁ、旦那の気持ちも判るがな」と、すれ違いざまにポンと肩を叩かれて。
オレはまた一人、孤独な作業に戻るのだった。









「いらっしゃいませ、クリスマスケーキはいかがですか〜♪」

リナが営業スマイルでカウンターに立つと、どんどん客が店になだれ込んでくる。

ちなみに今のリナの格好はコックコートから白いブラウスと
紺色のふんわりスカート、さらに接客用の真っ白なフリフリエプロンを着用。

店長の奴はリナにピンクのミニスカートを着せたかったようだが
それはリナ自身が拒否してボツになっている。

正直、それはオレも見たかったような・・・って。
いやいや、そんなリナは他の野郎に見せていいもんじゃないぞ!

「このデコレーションのやつを・・・」

「僕はそっちのチョコレートのを」

「は〜い、かしこまりました〜♪ お客様、順番にご注文を
お伺いいたしますので、少々お待ちいただけますか?」

ニッコリ笑顔で手際よく注文を受けては、
鮮やかな手つきで包装して客に手渡すリナと。

「ぼく、どれがいいですか?」

「んとね〜、マー君これがいいの〜」

カウンターの外ではアメリアが、うんしょっと背伸びをして指差す男の子を、
客の波に押されないように抱え上げ注文を受けている。

「わかったわ。じゃあ、すぐに用意するからお母さんの所で待っててね」

男の子を降ろすと、パタパタとカウンターの中に戻って商品を取り出して
直接母親に手渡しに行く。会計が済んだと思ったら、横から「おねーさん」って
アメリアのスカートの裾を引っ張る小さな手が。

・・・今度のお客は女の子か。

どうもアメリアは子供に人気があるようだ。






オレはその様子を店の外で眺めていた。
・・・トナカイの着ぐるみの中から。

ようやくカットの仕事が一段落したと思ったら「君はこれ着て呼び込みして」と
茶色の全身着ぐるみを手渡されて、あれよあれよという間に
寒風吹きつける屋外に放り出されたのだ。

「あ、これも持ってね」

追加ででっかいプラカードまで持たされて。

お蔭でケーキを買うという名目の、リナ目当てらしい野郎を
牽制する事もできやしない。

それに「形はどうあれお客様である以上、失礼な事しちゃだめ!!
いい? 今度殺気なんか飛ばしたら、あんただけご飯抜きだかんね!!」
と、リナからもきつく厳命されている。

そう、既にいっぺんやっちまっててリナに怒られているのだ。

注文もそこそこに「お嬢さん、今晩空いてませんか?」って
馴れ馴れしくリナの手を握りやがったんだぞ!?

思わず手加減忘れてそいつに気を当てたら、とたんに店から客が
いなくなっちまったんだよなぁ・・・そいつ以外。

ぶっ倒れたそいつの頭を、事もあろうにリナは自分の膝の上に乗せて
介抱しつつ、「えっとね、あたしはここの商品が全部売切れるまで
上がれないのよ」といかにも残念そうな顔で詫びを入れる。

すると、失神状態から覚めた男は「なら、この俺が売り上げに協力してやるよ。 
デコレーションケーキ10個買うから、夜の予定考えといてくれよ!」と。

馬鹿な男の頭の中は、恐怖から一転、甘い希望へと替わり。

だらしなく鼻の下を伸ばした男は、リナの見事な営業スマイルに騙されて
両手一杯にでっかい箱を抱えながら、ヨロヨロ帰っていったっけ。

あれ、どうすんだろうな?

それに、今の段階でも工房ではゼルが店長と一緒に追加を作ってるから
夕方に売り切れはどう考えても無理そうだし。

「ほら、ガウリイ! ぼ〜っと突っ立ってないで、お客さんを並ばせて!!」

店の中からリナのスリッパが飛んできた。






昼過ぎの野郎は夕方に一度、店に顔を出したが
「ごめんね〜まだ在庫がこんなにあるのよv」と
指し示されたケーキの山を見て、諦めて帰って行った。

「リナ、それってほとんど予約分じゃないですか」

「い〜のよ、全部取りに来るまでは仕事終わんないし」

笑うリナと呆れるアメリア。

確かにゼルの言うとおり、心配するだけ無駄だったのかも知れんなぁ。







「は〜っ、やぁっと一段落だわね〜」

「本当です〜」

「やれやれだな」

「ああ、まったくだ」

4者4様の溜息が洩れる。

時間は既に晩飯時を大きく過ぎて、子供は寝る頃合。

予約分も販売分もほぼ売れて、客足も途絶えてやっと一息ついた俺達。

「いやいや、みんな良く頑張ってくれたね」

工房からホクホク顔の店長も顔を出し、「ほら、中で一息温かい物でも飲まないか?」と
なぜかリナの肩に手を回そうとする。

「は〜い」
スルッと自然な動きで魔の手をかわすリナ。

「私、カフェオレがいいです」

「俺はブラックを貰おうか」







口々に好きな事を言いながら先に中に入ったゼルとアメリアは、
たぶん気づいてなかっただろう。

リナの頭上でバチバチと、牽制の火花を散らすオレと店長の事など。

「んじゃ、あたしもカフェオレでも飲もっかな〜♪」

・・・当人であるリナも、ぜんぜん気づいてないようだな(汗)





数分後。

「いらっさいませ〜」

オレは一人、カウンタに陣取ってふてくされていた。

なぜって、「売り場を無人にする訳にはいかないから」って
またしても奴にリナと引き離された所為だ!!

おまけに「それ、脱がないで」ってご命令で着ぐるみのまんま。

こんな蹄でどうやって商品をつかめって言うんだよ!

つい文句を言いそうになったオレは「ガウリイの分、ちゃんと用意しとくから」って
リナに宥められて、なんとか我慢してここにいる。

けど。

けどなぁ・・・。

「やだ、お世辞でも言い過ぎですよ〜」

「いやいや、リナ君のお蔭で売り上げは前年比150%アップ!
どうだい、本気でうちで働かないか?」

「あたしは魔道士の方が性に合ってるので・・・」

カップを片手に馴れ馴れしくリナに接近している店長と、ちょっと
困ったなって顔でかわしているリナの姿。

・・・ギチギチ・・・ベキッ。

オレの手の中で、金属製のトングがひしゃげた。

「まぁ、こいつは今日は猫を被っているが、
普段はあんたの手に負える奴じゃないぞ?」

横から助け舟を出したゼルにも
「いやいや、リナ君の魅力は充分分かっているさ」と
奴は笑って取り合おうとしない。

「んじゃ、そろそろガウリイと交代してきますね」

タイミングを計って、リナがこっちに逃げてきた。

「リナ〜、いつまでこうしてなきゃならないんだ〜?」

思わず情けない声を出したオレに、さり気なく耳打ち。

「いい? 12時まで頑張ったら売れ残りのケーキ全部
ただでもらえる事になってんのよ。
 だからウダウダ言わないで、もうちょっと我慢!
さ、あんたの分のホットミルクを用意してるから休憩してらっしゃい。
お昼にアメリアが勢い余って作っちゃった甘いバターを
たっぷり塗ったシュガートーストもあるから」

せっかく一緒にいられると思ったのに、ドンと背中を押されて
工房へと追いやられちまった。




トボトボと中に入れば、なぜかゼルとアメリアの姿がない。




「え〜と、ふたりは・・・?」

上半身だけ着ぐるみを脱ぎながら聞いてみると、
「もうこの時間に4人も必要ないので一足先に宿舎に帰ってもらったよ」
ガシャガシャと、でっかい泡立て器を洗いながら、そっけなく言うグリーン。

リナの前では絶対そんな言い方しないだろ〜が。

「なら、俺達ももういいだろ」

わざとそっけない言い方をして、リナの用意してくれた牛乳を一口。

んんん・・・ぶっ!?

「な、なんだぁ〜!? これめちゃめちゃしょっぱいぞ!!」

慌ててカップの中身をシンクに捨てると、底の方に溶け残ったらしい
塩の塊が大量に出てきた。

「おや、リナさんが手ずから入れてくれたものを捨てるなんて
酷い人だなぁ」

ケケケと底意地の悪い笑みを浮かべる野郎の態度に、
オレの我慢も限界を越えた!

「あんた、どういうつもりだ!!」

「お前みたいな奴がリナさんの傍にいるのが間違いなんだ!!」

バチバチと、両者の間で今度こそ本気の火花が散る。

「今日会ったばかり奴に、オレとリナの事をとやかく言われたくないんだがなぁ」
ビキビキとこめかみを引きつらせるオレと。

「ふん、長い事一緒に旅をしていたらしいけど、所詮それだけだろ?
あんなに可愛らしい娘と一緒にいながら、ずっと告白もできないような
へたれにとやかく言われる筋合いはないね!」
肩をすくめて人を馬鹿にするように、鼻で笑う奴。

「やるか!?」

「やるとも!!」

奴は近くにあった金属製の巨大なヘラを中段に構え。

オレはやはり手近にあった大理石製の麺棒を手に取った。

「僕を単なるパティシエと侮ってもらっちゃ困るね。
この店を持つ前は、傭兵家業で資金を稼いだ実績があるんだぜ」

ニヤリと笑うグリーン。

・・・元同業者になら、遠慮はいらないよなぁ。

オレも笑ったんだと思う。

一瞬、ギョッとなった奴の頭目掛けて、
けっこうなスピードで麺棒を振り下ろす!!

が。

カキーンっ!!

麺棒は脳天すれすれで受け止められて、
お返しだとばかりに、横から何かを投げつけられた。

バサッ!!

「うわっ!!」

視界が真っ白に霞む。

叫んだら口の中が甘い。

どうやらこれは、粉砂糖か!?

べたつくそれに気を取られてると見たのか、今度は左前方から
白い煙幕を切り裂いて、輝く何かが飛んでくる!!

「おっと」

身を捩り、紙一重でそいつを避けると、『ビ〜ン』
後ろの壁に深々と、衝撃で持ち手を震わせながら突き刺さるパレットナイフ。

「ちっ、避けられるとは思わなかったぜ!」

悔しげな顔で工房内を移動しながら、次の手を考えてるだろう奴の動きを
視線で追いながら、オレも得物になる物を物色する。

さすがに怪我させちゃあまずいし、オレの所為で依頼料貰えなかったりしたら
リナが怒るのは目に見えてるしなぁ・・・。

さて、どうしたもんか。

オレの見立てでは、奴の腕は2流の中って評価だが、
色に目が眩んだ男ってのはある意味タチが悪いからなぁ。

奴の手から猛スピードで放たれる銀の弾丸を、体裁きでヒョヒョイと避ける。
何だ?と視線で追うと、壁に当たって床に零れ落ちる口金が。

こんなもんまで使ってきやがるか。

なら。

オレは視界の端に入った物体をガバッと掴み。

ビシビシビシッ!!!

「ぐわっ!!」

全弾命中した標的は、まるで潰れたカエルのような声を上げて
動きを止め。どうにか完全に沈黙した。

力を失った身体はぐったりと床に座り込む形で投げ出され
奴の周りには色とりどりの砂糖の破片が飛び散っている。

奴の口金指弾に対抗して、お返しに金平糖をぶち込んでやったんだが
ここまで効果があるとは思わなかった。

う〜ん、金平糖恐るべし。

その横に置いてあったドラジェとかいう大粒の砂糖菓子の方が
弾には都合良かったんだが、使わなくて正解だったなぁ。

とりあえずここで気を失われたままだと報酬がもらえない。

そして報酬がもらえないとリナに怒られるしと、
しょうがなく、オレは奴の後ろに回って活を入れてやる。

「う・・・」

何とか意識を取り戻した野郎の胸倉をグッと掴んで
オレの前に引き据え、思いっきり睨みつける。

「リナはなぁ。簡単に俺達の思い通りになるような女じゃないんだよ。
だから、姑息なマネをするだけ無駄なんだ」

だから、リナに見てほしいのなら正々堂々とやりゃあいいさ。

「ま、オレは誰にもリナの隣を譲る気はないけどな」

ニッと笑いながら「ほらよ」と手を貸して、ゆっくりと立たせてやる。

「・・・負けたよ」

ようやくグリーンは、ガックリと肩を落として自らの敗北を認め。

ほぼ同時に壁の柱時計が、日付けが替わった事を告げて、
今回の依頼は滞りなく終了となった。







「ところで。 あんたはリナのどこに惚れたんだ?」

今日で仕事は終わり。

もう、こいつとも会う事はないだろうしと、一応理由を聞いてみると。

「いやぁ、リナ君の華奢な身体と可愛らしい笑顔。
それに何よりあの、プチパイ!!
こう、片手で簡単に包み込んでしまえそうなささやかな胸は
僕の好みのツボを大・直・撃だったんだ!!
少女と女性の境界を彷徨う一時の美を体現した彼女は、
まさに僕の理想のヴィーナスだ!!」

両手をグッと握りしめつつ雄叫びを上げる男から、オレは一歩。
また一歩後ろに下がる。

奴はまだ気がついてないが、オレからは怒りに満ちた表情で
足音も立てずに忍び寄るリナの姿が見えて。

「・・・おい、やばいぞ」

小声での忠告は、興奮状態の奴には届かず。

「あの、硬い果実のようなリナさんの胸を!!
一度でいいから触りたかったんだ〜っ!!」

「報酬とケーキは確保したから、心置きなく吹っ飛べ!!
このドすけべ男ども〜っ!!!」

両手を高々と上げて奴が叫んだのと、リナの堪忍袋がキレたのは
ほぼ同時だった。

「怒った顔も素敵だ〜っ!!」

「何でオレまで〜っ!?」

爆風で壊れた屋根の破片とともに、寒々とした夜空に投げ出される
情けない男が2人。

「乙女に対して失礼千万な言動しまくった罰として、
気の利いたプレゼント用意してくるまで入れてあげないかんね!!」

怒りなのか羞恥なのか首筋まで真っ赤に染め上げてつつも
リナは両手にしっかり戦利品を抱え、本日の宿に向かって歩み去り。

さっきまでケーキ屋だった筈の、現瓦礫の山には、
取り残された男が2人。

「・・・言っとくが、こうなったのはお前の所為だぞ」

「・・・あ、あんな風に怒った顔も素敵だ〜っ!!
リナさ〜ん、カムバ〜ック!!」





結局その後、2人で街中を駆け回ってプレゼントをかき集め。
リナに許してもらえたのは、朝日が昇る直前だった事を追記しておく。