時は新年早々、所は某温泉旅館。

今年も恒例の「セイルーン運輸新年会」会場内部は・・・
既に出来上がった面子で溢れかえっておりました。

会場の至る所に転がる大小色とりどりの酒瓶に、
おつまみやら座布団が宙を舞い乱れ落ち。

飲みすぎて前後不覚となった大トラ小トラは、毛布とともに
宴会場の隅にまとめて転がされる始末。



そんな中。

宴会場の片隅で人知れず、一組の男女による攻防戦が
繰り広げられていたのでございます。



「ちょ、ちょっとガブリエフさんっ。 どいてくださいってば」

ジタバタと暴れているのは栗色の髪をポニーテールに纏め、
やや大きめの浴衣を着込んだ小柄な女性。

が、・・・なぜに彼女の足は空を掻いているのでしょうか?

視線を下の方からだんだんと上に向けていくと・・・。

彼女の腰の辺りにぶっとい腕が2本、しっかりと巻き付いているではありませんか。

さらに視線を上へと持っていくと・・・彼女の頭越しに機嫌よさげに笑っている男の顔が。

「り〜な〜、お前さんはもう飲み過ぎだから大人しく部屋に戻るんだ」

「はーなーせーっ!! こんな所で馴れ馴れしく名前を呼ぶな〜っ!!」

グリグリと頭を撫で回す男に、小声ながらもはっきりと抗議の声を上げる彼女。

そうこうしているうちに酔いも手伝っているのか、おもむろに男は
リナと呼んだ少女を軽々と抱え上げてしまいました。






「なあ? インバースとガブリエフは〜?」

「知らないなぁ。 インバースは風呂か部屋だろ?たぶん。
さっきアメリアさんが風呂に行くって行ってたから一緒に行ったんじゃないのか」

タン、と閉まった襖の向こうの声は、幸か不幸か強制的に
退場させられてしまった彼女の耳には入らなかった模様。







「もうっ、「会社ではあたし達が付き合ってる事は秘密にする」って
最初に約束してたのに〜っ!!
どうしてこんな真似すんのよ、ガウリイっ!!」

人気のない廊下を男の肩に担がれて、まるで荷物のように
運ばれていくその手には、旅館の名前が入ったスリッパが握られています。

実は先ほどからずっと、男の頭をそれでペシペシと叩きまくっているのですが
どうやら彼女も酔いが回っているご様子。

普段ならば見事としか言いようのないスリッパ捌きで、目の前の不埒者を
鎮圧できるというのに、今日はまったく力が入っておりません。

片や、ガウリイと呼ばれた男の方はアルコールの影響などどこ吹く風、
足取りもしっかりと、暴れる少女を片手で制し
悠々と、今夜あてがわれた自室へと向かったのでした。






「ほぉらリナ、ついたぞ〜♪」

ドサリと降ろされた場所は予想よりも硬くはなく。
むしろ柔らかな座り心地と冷えた感触が、火照った肌に心地良い。

そう、ここはお布団の上♪

「って、着いたじゃないわよ!! ここってあんたの部屋でしょうが!
これ以上飲むなって言うんなら大人しく自分の部屋に帰るから、
だから・・・って、何してんのよっ!?」

仰向けに転がってしまったリナの身体に覆いかぶさるようにして
ガウリイの魔の手が迫っています。

「ん〜? 誰も見てなきゃいいんだろ?
ここならオレ達2人きりだし、恋人同士に戻っても、な♪」

そう言いながらガウリイの手がリナの着ている浴衣の帯へと伸びてゆき・・・。

「や、やだっ。んな事してて同室の人が帰ってきたらどうすんのよ!!」

涙目になりながら抵抗を見せるリナ。

にんまりと嬉しげに迫るガウリイ。

「ん〜? ルークなら「今日はミリーナの傍にいるんだ〜っ!!」って
宴会場で吼えてたから、今日は帰って来ないだろ」

だから、大丈夫だって。

なおも緩んだ顔のままジリジリと、逃げるリナににじり寄るガウリイ。

普段社内の女性陣に「優しそう」と評される青い瞳は
どうにも妖しげに輝いています。

「あ・・・や・・・やだ、あたしそろそろ帰らなきゃ。
アメリアとトランプする約束してたんだった♪」

アハハハ・・・と乾いた笑いを交えつつ、棒読みの台詞を
口にするリナ。

こめかみからは、つぅっと一筋、汗が流れ落ちてます。

「それなら心配ないぞ〜v
アメリアにはゼルを用意しておいたからな。
今頃向こうは向こうで美味い事やってるだろうさ。
だから・・・なぁ。 そろそろ観念してくれ」

ガウリイはニッコリ笑顔で「いただきます」と宣告しつつ、
すかさず一気に帯を引き抜きにかかりました!

「ぅぎゃあっ!!」

一瞬の隙を突かれて驚いたのか、リナさんの口から飛び出したのは
色気の欠片もない悲鳴です。

「ん〜? そんなに怖がらなくても大丈夫だぞ〜。
ドアの鍵は閉めたし、窓もロック済み。
おまけにここは角部屋だから部屋の前を通る奴もいないだろうしな」

引きつった顔のまま押さえ込まれたリナの耳にだけ
「腹いっぱいになるまでな」と聞こえたとか聞こえなかったとか。

次の朝、しっかり社内公認カップルになっていたのは
ガウリイの策略勝ちだったのでしょうか。