ロイヤルミルクティー







コトコトと鍋の中で湯が沸いている。

その中にあらかじめ分量を量っておいた茶葉を投入。

一煮立ちさせると、みるみる茶葉が開いて美しい紅茶の色と香りが抽出されていく


そこに新鮮な牛乳を注いでまた一煮立ち、火を止めたら5分待って・・・。

「なぁ、何作ってるんだ?」

後ろからは相棒の声。

まったく、普段はボ〜ッとしているくせに、美味しい物をかぎつけるのは得意なんだから。

「見てわからない? ミルクティーを作ってるの」

あたしは振り返らないまま、茶漉しと大振りのポットを用意する。

ついでに脇に置いた桶の中に、氷を入れ軽く砕いて水を張り。

「さて、5分経ったわね」

もう一度コンロに火を入れて、白と交わって優しい色に落ち着いたミルクティーを温めなおし。

フツフツと噴きあがる寸前で火を止めて、茶漉しで茶葉を取り出し砂糖を足して
少しかき混ぜてから鍋の中身をポットに移す。

「珍しいよな、リナがミルクティーを飲むなんて」

いつのまにか自分用らしいカップを用意して笑ってる奴には悪いんだけど。

「まだだめよ。これは今から冷やしてそのまま一日寝かせてからが飲み頃なの」

カシャン。

桶に張った氷が、突っ込んだポットに押されて涼しげな音を立てる。

「なんだ、まだ飲めないのか・・・」

あからさまにガッカリした様子の相棒に、「そんなに飲みたかったの?」と聞いてみた。

あくまで聞くだけで飲ませてあげないけど。

「ああ、小腹が空いたから何かないかって覗きに来たら、凄くいい匂いがしてるだろ?
おまけに手元に昨日買った上等のクッキーがある。
これはもうお茶にするしかないだろうって。だから、ちょっとだけ味見させてくれ〜」

うだうだ物欲しげな顔でぐずる奴は放置して。

後片付けと、女将さんにキッチンを借りた礼を済ませてから自室へと戻った。

ポット入りの桶はまだすねているガウリイに運ばせたけど、でもまだ飲ませてやんない。
ものには何でも時期ってものがあるのだ。

故郷のワインじゃないけど、時間をかけて熟成させることでいっそう味に深みが増したりする。
そういう我慢ができなけりゃ、本当に美味しいものを味わうなんてできっこないんだから!






「なぁ、じゃあ明日。明日はオレにも飲ませてくれるのか?」

結局下で普通の紅茶を用意してもらって、一人でクッキーを齧りつつガウリイが。

「いいけど・・・なんであたしの分がないのよ?」

自分だけ冷たいアイスティー飲んどいて、その口であたしのミルクティーは分けてくれですって?

「リナの分はこれから貰ってくる。で、冷たいのと熱いの、どっちにするんだ?」

「そうね・・・冷たいストレートティーよろしく。
ついでに前の店でクロワッサン売ってたからそれもお願い」

「ほいよ」

気のいい返事で注文の品をそろえに出て行くガウリイ。

そんな彼の背中に、そっとウインク一つ。

『あたしはそろそろ食べ頃なんだけどなぁ〜』って。

笑って、舌を出してみた。