siesta







「ねえ、今日はどっかでかける? それとも部屋でゴロゴロする?」

リナがオレの隣でポテチをつまんだままこっちを見てた。

「ん〜、ここのところ忙しかったからなぁ・・・。
オレもだけどリナもそうだったろ? 外はピーカンで暑そうだし。
今日の所はゆっくりするか? 食料もたっぷりあるし、
クーラーのお蔭で過ごしやすいし、リナが横にいてくれるし」

嬉しい気持ちは、隠さない。

オレはリナがいてくれれば幸せなんだって
いつでもどこでもお前さんに伝えたいから。

「バッ・・・!! そんな恥ずかしい事言ってんじゃないわよ!!
ま、まぁ、たまにはいいと思うけど・・・部屋でゴロゴロ」

照れちまったのか、首まで真っ赤に染まったりナ。

うんうん、こういう顔は二人っきりの時だけしてもらいたい、うん。

「なら、決まりだな♪ 今日はのんびりぼ〜っと二人っきりだ!」

ギュッとリナを抱き締める。

ちっちゃくってや〜らかくって、可愛くて。
この世の誰よりも大事な大事なオレの恋人。

普段人前では勝気な面が目立つけれど、それはあくまで対他人向けで。
完全にプライベートな時間には柔かい顔とか、甘えた顔も見せてくれるんだ。

「ガウリイ、ちょ、くるしいって!」

腕の中、ジタバタ暴れられたが「離したくないんだ」って囁いたら
そのうち黙って頷いて、キュッとオレの腕に手を添えてくれた。

「な、あっちでくつろごうぜ?」

目線の先には、これだけは奮発して入れたダブルベッド。

「朝っぱらから何考えてんのよっ!」

「いや〜、腹も膨らんだ事だし、まったり二度寝を決め込むのも
いいかと思っただけなんだが? ん?」

慌てて顔を背けるリナに意地悪い質問をしてしまう。

「バカッ!このクラゲっ!! そっちに頭が向いちゃったのは
あんたの日頃の行いが悪いからでしょうが!!」

ベシッと一発叩かれて、オレはフニャっと笑ってしまった。

「でも、嫌いじゃないだろ?」

軽い身体を抱き上げて、そのままベッドへと運んでそっと降ろした。

「・・・否定は、しないけど」

ボソッと呟いた顔は鬼灯よりもトマトよりも真っ赤に熟れて
今にも『食べ頃だ』と知らせてくれるけど。

「ま、そっちは昨日堪能させてもらったし、リナだって辛いだろ、身体?」

「うっ・・・。それも否定はしない・・・」

赤い顔のまま、子供みたいにコックリと頷き一つ。
そんなリナも、凄く可愛い。

「じゃ、今日は一日ゆっくりしよう。 リナが昨日作ってくれたお茶とか飲んで、
リナが好きだって言ってた歌手のCD聴いて、眠たくなったらこのまま寝てさ。
腹が減ったらデリバリーでも取ればいい。その為の残業代だろ?
先週の埋め合わせになんでもリナの好きな物を頼めばいい」

先週は急なトラブルで残業が続いて、おまけに休日返上で走らなきゃならなくて。
せっかく映画の試写会が当たっていたのに人に譲る羽目になったんだ。

そんな時同僚の彼女なんかは『仕事と私、どっちが大事なの!?』って
騒ぐらしいんだが、リナはそんな事は絶対言わない。
「わかった。じゃあしっかり頑張ってらっしゃい。
その代わり、次のデートは全部あんたのおごりだからね?」
後ろ髪引かれてるオレを、笑って送り出してくれる。

おごりだなんだと突っ込んでくるけど、実際はちゃんと負担になり過ぎないように
配慮を忘れない事も知っているんだ。



だから、今日はリナに感謝の気持ちを込めて。



「今日は一日、リナの思い通りに過ごせばいい」

シーツの上にしなやかに散る、栗色の髪をそのまま枕の方に流して
傍に置いてあったポータブルプレーヤーの電源をON。

「かたっぽ、貸してあげるわ」

ふんわりと笑ってリナがオレの耳にイアホンを突っ込んで。

「ああ、借りるな?」

オレも、空いてる方をリナの耳にセット。流れてきたメロディは
今の時間にぴったりの、穏やかなピアノ曲。

「・・・あたし、寝ちゃうわよ?」

薄いカーテン越しの日差しが顔にかかって眩しいのか
目を細めたまま、リナが笑い。

「ああ、オレもたぶん寝ちまうだろうな」
リナに釣られて、オレも笑った。





こんな穏やかな時間は、この世で一番の贅沢なのかもしれないな。

眠りと覚醒の境界線を漂いながら、オレはぼんやり考えていた。