眠い目をこすりつつ、のっそり身を起こそうとして・・・・・・失敗した。

「なんだぁ? まだ朝飯には早いだろー」

失敗の原因は同じく眠たげな声の主にある。

あたしの腰に巻きついていた腕がスルスルと伸びてきて、あるいは下がって
素肌の胸と腿とを拘束にかかる。

「ちょっ、なにすんの!」
胸を包み込んできた手がムニムニとや〜らしい動きを始め。

感じる刺激に力が抜けてしまったあたしは、ずるするとお布団の中に引きずり込まれた。

「リナ。しばらく潜ってろ」

ポフッと優しくあたしの頭を押さえたガウリイの囁きと、
廊下を歩く足音が聞こえたのはどちらが先だったのか。

あたしは慌てて布団の奥まで潜り込んで息を潜めた。

ここ、ガウリイの部屋だった。

こんな早朝から尋ねてくる人物には一人しか心当たりがない。

・・・・・・ゼルガディスだ。

一緒に旅をしていた時もだったが、彼は一般的な宿には泊まりたがらない。

まぁ色々と後ろ暗い過去があるから都合が悪いってのと、ちょっと個性的な
見た目をあれこれ詮索されるのを厭ってるのもある。

昨日、別れて随分経つ彼と偶然、階下の酒場で再会して
その場であれやこれやと食べて飲んで喋ってと盛り上がって。

珍しくも千鳥足になるまで飲んだ際に
(つか、もしや意図的にガウリイが飲ませたのかもしんない)
ゼルがちょっとした荷物を忘れて帰っちゃったのだ。

もちろん荷物はあたし達が預かってるんだけど・・・。



コンコン。

ちょっと遠いノック音が聞こえた。

たとえお布団を被っていてもピクシー並みといわれるあたしの耳は、
それが廊下を挟んだあたしの部屋の扉を叩いている事を判別できてしまう。

数度聞こえたそれが止むと、数歩分の足音を挟んで今度はこの部屋の扉が叩かれた。

「旦那、朝っぱらからすまん」

やっぱりゼルだ!! 聞こえた声にビクッと身を縮こまらせたあたし。

ガウリイはどうするんだろう・・・と思った瞬間。

「ま、任せとけよ」の声と共に布団越しの『ポンポン』をされて。

「ゼルかぁ? 今起きる」

ガウリイは返事をしながら、もそもそと
パジャマのズボンだけを履いてベッドから降りてしまった。

『バカっ!!』扉を開けたらあたしがいるってばれちゃうじゃない!!

昨夜は酔いも手伝ってかあたしの方から誘っちゃって、
この部屋に縺れ込むなりあいつの服剥ぎ取っちゃって
あたしの服も自分で脱いじゃったままそこらに散らかしてた筈。

んなもん見られたら一発でナニしてたかバレバレよっ!!

「昨夜・・・あの酒場に忘れ物をしてしまってな。あんたらが預かってくれてはいないかと」

「ああ、あの本だろ? ゼルにしちゃあ珍しいよな」

あたしの困惑を知らず、極自然に会話しつつ悠然と扉に近づくガウリイ。



ガチャッ。



ノブの回る音に続いて扉の開く軋み音が!!

 ああ、リナちゃん絶体絶命!!



「これだろ?」

「すまんな、助かった」

「いや、構わんさ。んで、朝飯位は一緒に食えるんだろ」

「リナがいいと言うのならな。さて、先に宿を引き払ってくる」

パタム。

意外なほどあっさりとやり取りは終わり、戻ってきたガウリイは
あたしの被っていた布団を引き剥いで「だから、任せとけって言ったろ」と
微笑みながら布団の代わりに覆いかぶさってきた。






「じゃあ、ここでお別れってことで」

「元気でな」

「あんたらも」

あの後軽くじゃれつかれたのを何とかかわして身支度を整えて、
自室で身なりを整えてからガウリイとは時間差をつけて階下に降りて。

あれこれ情報を交換しつつ3人で朝ごはんを食べて。

一足先にこの街を発つゼルと別れのあいさつをして
立ち去る背中に手を振った時だった。

ゼルが急に振り返ったと思ったら、ニッと笑って。

言った。

「旦那。隠すのなら全部隠してやれ。
わざと二人分の下着だけ残すのは趣味が悪い」と。

「なっ!?」

「ああ、そういやあれだけ忘れてた」

絶句するあたしと、あっけらかんと笑ったガウリイを見て、
してやったりと笑んだ男は、今度こそ振り返らずに旅立っていった。



「・・・・・・ねぇ。わざとって?」

彼の背中が豆粒ほど小さく見える頃、ようやくショックから立ち直ったあたしは
たっぷりと恨みを込めて隣のエロくらげを睨みつけた。

が。

「あのな・・・・・・あれは、お前さんが布団に潜ってる時に蹴りだしたんだろーが。
せっかく寝る前に皺にならんようにって服畳んでやったのに」

「じゃ、じゃあどうして「忘れてた」なんて言ったのよ!!」

「そりゃあ・・・・・・な」



そこで、意味深顔のガウリイに捕まって。

逃げ場を失ったあたしの耳に吹き込まれた言葉に、くやしくも頷かざるを得なくって。

堪えたいのに勝手に熱くなってしまったほっぺたを彼の胸に埋めて隠してみたら
「ま、いいんじゃないか? どっちにしろいずれは分かる事なんだし」と
軽々抱き上げられてキスされてしまった。



恋人同士になってからというもの、彼に翻弄されっぱなしのあたしだけど。
・・・・・・ガウリイになら、しょうがないかもしんない。