濃茶色の丸い塊が3つ。

艶やかな表面のが1つ、粉をまぶされ艶のないものが1つ、
そして凹凸で艶を消してあるものが1つ。

箱を開く前から芳しく漂っていたカカオの匂いは、一段と強く
あたしの鼻腔をくすぐっては「早く食べて」と誘惑してくる。

さて、どれから手をつけようか。

一粒が銀貨一枚分の価値があるそうなチョコレートは、数年前までは
同じ重さの金と交換できる程、稀少価値があったのだ。

チョコレートの原料となるカカオの実(正式には種らしいが)は、結界の外か、
ぎりぎり境界上の土地に僅かに採れるような、とにかく絶対量の少ない植物であり、
長年一握りの大金持ちやら王族が密かに楽しむ類の菓子だったそうな。

アメリアは食べた事あったんだっけか?
ま、いいわ。 とにかく誰にも見つからないうちに食べなくちゃ。

でも・・・ああ、なんていい香りなんだろう。
どれから手をつければいいのか、本当に迷ってしまう。

艶ありのはオレンジリキュール入りで、艶なしはラム酒レーズン。
凸凹のはアーモンドを砕いたのを混ぜ込んでいるとか。

しばらく小箱の前で悩んで悩んで、やっと決心がついたあたしはそのまま隣室に足を運んだ。



「リナ、まだ食べてないのか?」

眠そうにベッドの上でゴロゴロしていたガウリイは、心底意外そうに
あたしを見つめてきて、ちょっとばかし居心地が悪い。

「あの、さ。 どうせなら、一緒に食べましょ? こんなもん、めったに食べられないんだし」

仏心を出したのは確かにあたしなんだけど。

「口移しで食べさせてくれ」だなんて、一言も言ってないわよ!!

二人分の熱に挟まれ舐められて。

あっという間に溶けた褐色のお宝は、その後二人を更に熱く燃え上がらせたそうな。






チョコって媚薬効果があるって本当ですかね。