手間暇かけてトロトロに煮込んだタンシチューを勝手に全部平らげられた。
減点1。

触るなって言っといたのに勝手に人の洗濯物洗って干してたこと。
上着だけなら加点1なんだけど、下着に手をつけた(それも手洗いした)ので減点5。

お風呂に入った後、換気忘れてタイルの目地にカビ生やしてくれたこと。
減点1。だったけど、次の日気合入れて掃除してくれたからプラマイ0。

下手打って風邪引いて高熱出して唸ってたあたしの看病をしてくれたこと。
加点・・・って言い方したくないから、ありがとう。

買い物帰り、急にいなくなるから心配した。
減点1。

先回りして、玄関の前で花束抱えて迎えてくれたからさっきの減点はなし。
そういや今日はあたしの誕生日だった。
ありがと。ちょっぴり照れるけど、嬉しい。

大事な話だからちゃんと聞いて、って言ってもほぼ聞いてくれないから、減点1。
ついでにちょっと込み入った話になると寝ちゃうから更に減点いち。
でも、毎回すっごく気持ち良さそうに眠っちゃってて妙に可愛く見えちゃうから、ちょっと困る。

いつまでここにいるの?って聞いても笑ってはぐらかすとこ。
どうして答えてくれないの?
・・・あたし、真剣なんだけどな。


年明けからなし崩しに同居している自称福の神は、今日もあたしの隣で笑ってる。
でも、ずっとこのままでいられるなんて思っちゃいけない。
もしかして彼自身、期限がいつまでなのか分かっていないとか?

ガウリイと過ごした3ヶ月は、笑って怒って突っ込みいれてご飯の取り合いもして。
去年の静かだったこの部屋がまるで嘘みたいに、賑やかであたたかい。
彼が隣にいるだけで実際ほんわり暖かいし、疲れて帰宅した時
迎えてくれる人がいるだけで心がふんわか温かくなる。

彼があたしに対してあれこれ注文をつける事はほとんどない。
精々深夜に一人で出かけるなとか、食事にピーマンは勘弁しろとかその程度。
大抵あたしの話に頷いたり笑ったり、時々頭を撫でたりするだけ。
神様って、こんなのだったっけ?って思ったりもするんだけど、ガタイの割りに軽すぎる
体重が人外のものだと証明している。あたしの手の上で軽々踊っちゃうんだもんね。

正直、あたしは彼が神だろうとそうでなかなろうとどうでもいいのだ。
一緒にいると楽しいし、心地いい。

もうガウリイのいない生活なんて考えられない、とまでは言わないけれど、
いきなりいなくなられたらしばらく立ち直れそうにない位には
すっかり彼と暮らす事に馴染んでいる。

わざと彼の欠点を数えてみても、自分の気持ちは誤魔化せない。

「・・・願いごと。ひとつ」

ひとつだけ、叶えてくれるのなら。

あたしは他の望みを手放してもいいと思ってはいる。

でも言えない。

だってもしも「それはダメだ」と拒絶されたら辛くて涙が出てしまうから。

彼の前では涙は見せたくない。
同情なんていらないから。
あたしが感じているのと同じように、彼も感じていてくれたら。
そしたら、この先別離の日が来ても、きっと笑顔で見送れるわ。

「難しい顔してるぞ?」
スッと伸びてきた指が、あたしの眉間をツンと突いた。

「こんなにしてたら終いにシワが消えなくなるぞ」

2本の指を使ってにゅいーんって、伸ばすんじゃない!
ファンデーションはげちゃうでしょうが!

「どうした? 悩み事なら相談に乗るぞ?」

「・・・ん、大丈夫。なんでもない」

触らぬ神にタタリなし、とは言うけれど。
触らなくても神様(?)に魅了されちゃってるあたしはどうしたらいいんだろう。
心配させないための嘘なんて、4月馬鹿にもなりゃしないわと
こっそり一人で溜息をついた。