一人でぶらりと立ち寄った酒場は、なんというか、
一歩入った瞬間から流れる空気が違う気がした。

騒々しい店内からはいつもどおりの歓声や、からかい声が聞こえたりもするが、
奥まった端の席で葬式にでも出てきたような顔でジョッキを握る連中がいたり、
こういう場には珍しい若い女の集団が楽しげに密談中だったり。

ま、全体的には賑やか過ぎるほど賑やかなんで、さほど気にする事じゃない
だろうと、カウンターの隅に陣取り、とりあえずブランデーを注文した。

木製のゴブレットに半分ほど注がれたそれを一息に飲み干すと、
馴染んだ灼熱感が舌にも胃にも心地よい。

軽い食べ物も注文して、一人のんびりと酒を嗜んでいると
こういうのはひさしぶりだよなとしみじみしてしまう。

こんな平穏な夜はここ数年ご無沙汰だったと、気がついて息を吐き、
彼女の隣にいられる幸福とスリリングな日常に新たな一献を捧げて
皿に盛られたナッツに手を伸ばした。

酒を飲み飲みナッツの硬い殻を片手で剥いて、子供がよくやるように
中身を放り上げて食っていると、背後から近づく気配がひとつ。

カウンター向こうのバーテンダーの表情は変わっちゃいないが
見知った気配でもなし。 さて、物売りか情報屋か。

厄介ごとの線は低そうだな、殺気がまったく感じられんし。

先手を打ってみようと振り返ってやると、ちょうど驚き顔の相手さんが
もんどりうってひっくり返る所だった。





手を貸してやると、素直に起き上がり礼を言った男は
見た感じオレと同じ位の年に見えた。

男がすっ転んだ辺りにはプレゼント用らしき一輪花の包みがいくつも転がっていて、
慌てた様子でそれをかき集める男を手伝って、幾つか拾って渡してやると
親切の礼だと包みの一つを手渡された。

何でも明日、この町で大きなイベントがあるらしい。

「そんときに使ってやってください」

ニヤリと笑った男は、色男にゃあこんなもん必要ないかもしれませんがね、と
額を叩くと、さっさと次のテーブルに近づいていった。

使うったってなぁ・・・オレは花なんぞ興味ないし。
第一、明日何があるかも知らんのだが。

……宿に帰ってリナに聞くか。



適度に酔いの回った身体に冷たい夜風が心地良い。

そろそろリナも帰っている頃だろう。

いつもなら特段の用がない限り、こんな時間に単独行動は取らないものだが
今日はまぁ、気楽なもんだ。



ここの周囲は森で、街道から微妙な距離に位置する比較的大きな町。
こういう町に立ち寄ったら大抵リナの悪い癖が出る。

夜の無断外出、いわゆる『実益を兼ねた』彼女の趣味、盗賊いぢめだ。

特に路銀が心もとなかったりするとオレの制止も聞かずに、
こっそり宿を抜け出しての独断専行の結果、奴らのアジト周辺には
一面の焼け野原か氷結地帯が出現する。

無論ねぐらから燻り出された悪党どもは半死半生一網打尽、
ようやくリナと合流したところで有無を言わさず荷物集めを手伝わされたり
「そいつら逃げないよーに見張ってて」の一言で置いてけぼりを食らうことになる。

乙女の憧れだかなんだか知らんが、真夜中にたたき起こされる役人も
気の毒だよなと同情するが、仕事を肩代わりしてやっていると思えば
まだ安いものかもしれないと最近は割り切る事にしている。

こういうのも慣れっていうんだろーなー。

のんびり構えられるようになるまで結構掛かった気もするが、
リナと長年付き合っていたら大抵の事では動じなくもなるってもんだ。



で、だ。

なんで今夜はのんきに一人酒かっくらっていられるかってーとだなぁ。
既に、やったあとなんだよなぁ……盗賊いぢめ。

それも街に入る前に、気晴らしだか八つ当たりだか知らんが
見つけた奴らを脅してアジト吐かせて手当たり次第。

当然仲間を庇いたい一心で商売敵の情報を流す奴が出てきたりで、
芋蔓式にここいら一帯の盗賊団を根こそぎ壊滅させちまったんだ。

当然オレも目いっぱい手伝わされたし、ちょっとばかり積極的に手を貸したのは
前の町で散財させちまった分を取り戻そうって気持ちがあったからで、
今後も深夜の散歩を公認する気はまったくない。

だいたいだな、いい年の男女が夜も更けた時間にやることじゃねーよなぁ。

うだうだとリナとの関係について考えているうちに部屋に到着。

中に入る前に隣室の扉をノックしてたら、案の定リナは在室していたので
さっきもらった花の包みを投げ渡した。

「ちょ、なによこれ!」

「いいから受け取っとけよ」

歩くうちに酔いがが全身に回ってきたのか、少々浮かれ気味の自覚はあった。

だが。

「……花? ほんとに貰っちゃっていいの?」 

投げた花を両手で包むように受けたリナの、ほんのり桃色に染まった頬と
嬉しそうな顔と声に、いきなりリナを抱きしめたくなった。

「あ、ああ。 じゃあ、お休み、リナ」

出来る限り平静を装いながら会話を打ち切り自室に逃げ込んだのは、
未だにリナとはそういう仲になっちゃいないからだ。

「……こーいうのは、素面の時にやらんとなぁ」

グローブを外した両手で、軽く頬を叩いて正気を保つ。

湧き上がった強い衝動に従わず退却してきた理由は、
たとえ意識があろうとも、酔いの勢いを借りて押し倒すようなマネを
したくなかったのが一つと、時と場所を考えない告白はただの自己満足で、
相手の事を考えていない証拠だというリナの過去発言を覚えていたからだ。

……そろそろ年上ぶった虚勢を張るのも限界かもしれんなぁ。

鎧を外すのも面倒で、ベッドの上に座って背もたれに凭れたまま目を閉じた。
明日、多少身体は痛むだろうが、全身を支配しつつある眠気には勝てなかった。

とろとろと、順調に睡魔の手に身を投げ出しつつあったオレは。



「ガウリイっ!! あんたいったいなにかんがえてんのよっ!!!!!」



数分後、ものすごい音量のリナの怒声に叩き起こされた。

何事だと問う間もなく強烈な衝撃が幾度も頭めがけて襲い掛かる。
わけもわからんまま両腕を組んで頭を庇うと、衝撃は止んだが
代わりに聞こえてきたのが黄昏よりも暗きもの…って、おいっ!?

「リナっ!! なんだか知らんがそれだけはやめろ!!」

慌てて飛び起きたオレの前には、怒りの形相を隠さないまま
仁王立ちしているリナがいた。

……オレ、なんかやっちまったか?

とりあえず止まったドラスレの詠唱に胸を撫で下ろしてはみたが
ここまでリナが怒るようなことに心当たりはなし。
しかし目の前のリナは全身茹ったみたいに真っ赤になって怒ってる。
激しい怒りの所為かぷるぷる小刻みに震える彼女の手には
見慣れたスリッパと、ぐしゃぐしゃになったさっきの花。

「あ、あんたね! どういうつもりでこんなもん寄越したのよ!!」

ずいっ!! と突きつけられた花を受け取って
リナは花が嫌いだったのか? と首を傾げかけて、気がついた。
手触りが生の植物のそれではなく、乾いた布地のようだったんだ。

良く見てみようと両手でそいつを広げようとしたら、
「あほかー!!」の
怒鳴り声と共にリナの平手打ちが飛んできて。

とっさに掴んだ手がジタバタ暴れるのを抑えつつ、改めてそれを
広げてみてオレは。

絶句、した。

いや、そういうものを見ただけで動揺するような年でもないが
それを持ってきたのがリナ。

「バカッ! 返してっ!!」

うっわ、なんか急に照れ臭くなってきた。
目にも優しいミルク色の小さな布の両端から伸びるレースの紐は
可愛らしいが、オレが握ってるのはちょうど……のとこだよなぁ。
なんで花がパンツに化けたのか、これを明日どう使うのかとか、
とりあえずリナを落ち着かせて聞かんと判らん事が多すぎる。

それにしてもオレに捕まっているのにも腹が立つのか、
さっきからリナに足踏まれまくって結構痛いしなぁ……どうしたもんか。

「ちょっと! いい加減離してったら!!」

ギッ!! と思い切りオレを睨みつけるリナの目にはうっすらと涙が滲んでいて、
冷静になれていたら未使用とはいえこんなもん異性であるオレに
握り締められたらそりゃあ恥ずかしかろうと気づけたんだろうが
あいにくと、タイミングが悪すぎた。

まだ、酔ってるんだよなぁ……オレ。

理性のたがが緩んでる自覚はあったからこそ酒が抜けるまで
不用意な接触は避けたかったのに、そんな顔見せられたりしたら
本音とか願望とか煩悩とかが騒ぎ出しちまって止まらなくて
『もうちょっとだけ、こうしてたっていいじゃないか』なんて
酷く子供じみた欲求のまま、普段見ることのできないリナの反応を楽しんでいたんだ。

だが。
「ねぇ! ガウリイってば!!」
とうとう痺れを切らしたリナの怒声が右の耳を劈いた。

頭の中で反響するキンキンとした痛みに顔をしかめながら
慌てて手を離して、改めてリナの顔を見たオレは
自分の愚かさを心底思い知らされた。

オレはそんな、身の置き所がないって顔をさせたかったんじゃない。

「……悪かった」

謝ってすむ事じゃないが、思い入り頭を下げた。
幾らオレ達が気の置けない仲だろうが、そういう関係になってもいない
野郎にこんなまねされたんじゃ、傷つくに決まってるだろうが。
特にリナは、こういうことには不慣れすぎるほど不慣れなんだから。

「……茶化しちまって悪かった。 
酔ってるとかそういうのは言い分けにもならん、本当にすまんかった!」

ああ、お前さんの気が済むまで怒ってくれ、
どれだけどつかれようが吹っ飛ばされようが荷物運びでも何でもやる。
だから、頼むから、汚いものを見たくないって風に目をそらさないでくれ。

ベッドの隅で自分を守るように膝を抱えてるリナに向けて、
オレはこの『花』を手に入れたいきさつやら、
明日この町で何があるのかも、こんなものをどう有効利用するのかも
皆目検討がつかないんだと、謝罪の言葉を交えながら必死に説明した。

何度もつっかえながら、それでも全部話し終える頃、
ようやくリナがこっちを向いて……急に噴出した。

「なに後生大事に 『それ』 握り締めてんのよ」
指を指されて笑われて、オレは元『花』だったパンツを慌てて放り投げ。

 「あんたが妙な下心とかでこんなもん寄越したわけじゃないって
判ったからそれでいい、今回だけ許したげるわ。
だけど、さっきのは明らかにやりすぎだわ!
あたしだけこんな辱めを受けたんじゃ割に合わないんだから、ガウリイ!!
そっちの罰はしっかり受けてもらうわよ!!」

素早くそいつをキャッチしたリナは、サッとポケットにしまうと
明日の朝、食事したら出かけるからと言い渡して隣の部屋に帰っていった。






翌日、朝飯を終えるなり外に出たリナの後についていく。

しかしイベントがあると聞いていた町中は平静そのもの、
喧騒もパレードも何もないし道行く人々の様子も昨日と同じように見えた。

黙ってついてこいと言われていたのでその通りに、ひたすらリナの背中を
追って歩いていると、リナは時折人に小さな紙片を見せては先を急ぎ。
じきに、一軒の商店に着いた。

木製の重そうな扉には『OPEN』の札だけがかけられ、換気の為だろうか
少しだけ開いた木窓には、陽光を遮る為なのかたっぷりとした長さの布が吊るされていた。

入り口の前で立ち止まっていたリナが、意を決したようにドアノブに手を伸ばしたのと
中から何かが転がり出てきたのと、どちらが早かったのか。
ドガッ!! という音と共にゴロゴロ飛び出してきた物体を
リナは軽いステップでかわすと、それの正体を確かめようともせずに
入るわよ、の声と共に店の中に入っていってしまった。

飛び出してきたのは物ではなかったらしい。
向かいの家の壁に衝突したらしく、ドスッという音と、
少し遅れて辛気臭い鼻声がグズグズと聞こえてきた。

この声、どっかで聞いたことがあるような気がするんだが……
この場合リナの後を追うのが先か、手を貸してやるのが先か
どっちを優先させるべきだろうか。

オレが躊躇している間にもコトは進んでいたようで、
扉の向こうからはリナとは別の女性の声が聞こえてきて、
どんどんこちらに近づいているのが足音で判った。

「ちょっとジョイナス! あんた何考えてんのよ!!」

勢い良く開いた扉から駆け出してきたのはきつい顔だちの赤毛の女。
彼女はズカズカとオレの前を通り過ぎ、まっすぐ正面に転がったままの奴に近づいて。
スカートのすそをからげて力いっぱい、そいつの尻を蹴り上げた!

「ぅぎゃうっ!!!!!」

蹴り上げられた衝撃でのけぞった男は、そのままの体勢で硬直したように
動こうともせず、「グゥ」とも「うぉ」ともつかない唸り声を上げていたが
そいつの態度に業を煮やしたらしい女の更なる追撃の足に数度踏みつけられ
蹴り上げられるうち、ようやく観念する気になったようだ。

「…ううっ…そんなに蹴らなくったって、いいじゃなあうっ!!」
「寝言言ってんじゃないわよ! この、うすらボケが!!」

のっそりと起き上がる素振りで恨み言を口にした男の頭に、
女の踵落としが綺麗に決まり。
今度こそ完全に沈黙した男の襟首を引っつかみ、あんたもいらっしゃいと
オレを誘うと、男を引きずったままさっさと店の奥に入ってしまった。



ちらりとしか見えなかったが、さっきの男はたぶん昨日の男の筈。
しばらく店の前で立ち尽くしてみたが、誰も出てくる気配もないし
いつまでもここにいたって仕方がない。
オレは意を決して扉に手をかけた。



ギィ、と、軋みをあげて僅かに開いた扉の向こうにいたのは
リナとさっきの赤毛の女と、女の足下に転がっているさっきの男。
男はまだのびていたいらしく、女に横っ面を踏みつけられたままピクリともしない。
リナはリナで怒りと困惑と苦笑が入り混じった表情を浮かべて
転がる男を見下ろしていた。

「なぁ、そいつ…」
「うちのが悪かったわね、目ぇ覚めたらきちんと詫びいれさせるから」
何をやらかしたんだ?と聞く前に赤毛の女の早口に遮られた。

「ったく、ろくに仕事もしない、家事もしない、おまけに身の程もわかってない!
いつまでもぐうすか寝てないでとっとと起きなさいよ、この、宿六っ!!」
かなりいらだっているのか、女はつま先に力を込めて捻じ込み始めた。

脂汗をだらだら流しながら諦め悪く狸寝入りを決め込む男と
それを知っていて男を踏み続ける女。
どっちが先に痺れを切らすのかと見ていたら。

「ね、この人って冷たいのと熱いの、どっちが苦手かしら?」
後ろから口を挟んだのはリナだった。

これでもか!というほどの満面の笑みを浮かべて赤毛の女に意味ありげな
視線を投げて返答を待つ。

「そうね、どっちか考えるのも面倒だからさ、いっぺんにやっちゃおうか!」
ナイスアイディア!!と指を鳴らし凶悪な笑みを浮かべて一つ頷くと
女は男を踏んでいた足を降ろして、店の更に奥へと歩いていった。

「起きないのはしょうがないから、先に悪さをした手を焼いちゃいましょうね」
真っ赤に焼けた鉄ゴテを手に戻った女は、子供に話しかけるように
男に語りかけつつ爽やかな笑みを浮かべ。

「じゃあ、あたしは逃げられないように下半身を氷漬けにしてあげるわ」
面白そうに言い放つリナの笑顔は盗賊いぢめの時に見せるもの。

ちらりらと薄目を開けては様子を伺っていた男も流石に危険だと理解したらしく
飛び上がって、着地と同時に土下座するという離れ業をやってのけた。

「や〜っと起きる気になったんだ」
男の行動を鼻で笑うと、さっさとしないとほんとにやるからね、と念押しをして
スタスタ奥に戻っていった。無論鉄ゴテも持って。

すぐに帰ってきた彼女の手にそいつがなかったことから片付けに行ってたらしい。
まぁ、それはそれとして。

改めて店内に視線を巡らせようとして、どこにも目のやり場がなくて困ったオレは
諦めて隣に来たリナのつむじを眺める事にした。
どこを向いても滑らかな曲線を描く人形と、それに装着され装飾された
色とりどりの小さな布やらリボンやらがいやでも視界に入るんだ。
曲線の大小やら、人形の見た目の成熟度合いは千差万別といえど
その身に纏う布切れの用途は皆同じ。
うお、あれなんかリナに似合いそうだよな。
って、今そんな状況じゃねーだろうが!

「おいおい…オレがいてもいいのかよ…」

「今更じゃない? あたしの前で力いっぱいパンツ握り締めといてさ」
「いい年してたかだが女物の下着の一枚や二枚、見たとこでどうってことないでしょ?」
女二人はあっさりと言ってくれるが
一枚や二枚って、そんなレベルじゃない。
所狭しと飾られ展示されている、清楚なデザインのからどこを隠すつもりなんだっていう
ヒモだけみたいな扇情的なものまで、多種多様な女性用下着に囲まれて、
更に言うならそれが原因で一時気まずくなってしまった少女の前での
この状況下で落ち着いていられる男ってのはそういないと思うんだが。
ま、あくまでここは店の中で、あれは全部売り物なんだから
そこら辺しっかり割り切れってことなんだろうか。

「……とにかく、彼女にも簡単な説明は聞いたけど。
あんたは一体なにがしたかったのさ?」
床に額をこすりつけて土下座を続ける男の前で仁王立ちで腕を組むという
ド迫力の女は、一切の言い訳を許さないだろう怒りのオーラを全身に漲らせて
哀れに思えてきた男の背中を睨みつけ、言い放った。

「人の作品無断で持ち出した挙句、祭の事を知らない旅人にばら撒いたって?
あんた、あたしの仕事をなんだと思ってんのよ!!」



「…何にも知らない奴が見て、下着だと気づかないかが重要なんだ。
幾ら好きな女性に堂々と迫っても許されるったって、男でも恥ずかしいし照れ臭いんだ。
だいたいこの町の風習はあからさま過ぎるんだよ、直球なんだよ!
好きな女に「今夜つけてくれ」って下着を贈るってなんなんだよ!
男だってなぁ、男だって、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ!!」
抗弁するうちに勢いづいてきたのか、だんだん男の声が大きくなっていく。
ついには立ち上がり、握り締めた下着製の花を彼女に示して声を荒げ。

「恥ずかしい恥ずかしいって、じゃああんたはあたし達が恥ずかしくないとでも
思ってんのかい? 第一、年頃の女達は皆、ちゃーんと知ってるんだ。
祭の日、男に呼び出されるって事の意味をね! 
好きじゃなかったら最初から行けないって断るに決まってるだろ! 
好きだから、確実に恋人になれるチャンスだから、恥ずかしさも
後ろめたさも何もかも振り切って出かけていくんだ!!」
あまりの剣幕に一瞬怒りを忘れそうになった女もまた、
男の言い分を受けてボルテージが上がっていく。

「お前らにはつつしみってもんがないのか!?」

「やかましい! こんな風習でもなけりゃ惚れた女に指一本触れない
野郎が多すぎるのがいけないんだ!!」

「そりゃあ爺さんの時代の話だろ!」

「じゃああんたは爺だってのね! 去年の祭の夜だって結局
指一本あたしに触れなかったくせに!!」

「真っ白な顔して倒れそうになってる女に手ぇ出す鬼畜が良かったのか?
必死に強がってみせときながらガクガク足震わせてるようなのを
無理やり押し倒すのが男らしいってのか!?」

「そんならそうとはっきり言ってくれれば良かったんじゃないさ!!
あたしはてっきり、甲斐性なしのあんたを養ってくれってことかと思ってたわ!!」

「…えーと。 ようするにその祭ってのが元凶、それでおっけー?」

唐突に。
二人の間に身を割り込ませたリナが一言、つっこんで。
二人ともが頷いたで犬も食わない痴話げんかは強制終了の運びとなった。







続きはまだまだ鋭意作成中です。
(日記に投下してた方が良かったですね(汗))
多分もうちょっとで終わります。 なんか、方向変わってきちゃった・・・orz