「フリーズ・アロー!」

キィィィィィンッ!!!!!

あたしの放った呪文とレッサーデーモンの生み出した炎の矢が干渉しあい霧散する。

「大丈夫か!?」

ザシュッ!!

また一体、下級魔族を斬り伏せガウリイが叫ぶ。

「こっちは大丈夫! そっちこそ、こんなのにやられたら夕飯抜きだからねっ!!」

ヒュンッ! 

耳を掠める嫌な風切り音は、奴らの爪が奏でたもの。

あんなもん、まともに喰らったら一堪りもないわっ!!
ええいっ、いい加減飽きてきたっ!!

「ブラスト・アッシュ!!」

「グオォオォ・・・」

纏めて三体を葬り去る。が、まだまだ敵の数は多い。

「リナ、こいつら倒しても倒しても数が減らん! 一体どうなってるんだ、こりゃ!?」

ガウリイのやや焦った声を聞きながら、あたしもまた同じ事を考えていた。

街道を少し外れたこの場所で、いきなり交戦状態に入った時は、
これほど数がいるようには見えなかった。

それに、今現在までに倒した敵の数は、あたしが屠った分だけでも両手の数を軽く超える筈。

ガウリイも同じく、いや、斬妖剣で斬り伏せた数はあたしのそれを上回っているだろう。

なのに、敵の数が一向に減らない。むしろ増えている印象すら受ける。

どこかから増援が来ているのか!? 

しかし奴らレッサー・デーモンには、空間を渡るような『力』はない。

つまり、この瞬間もどこかで何者かがデーモン達を出現させ続けている、
そう考えるのが自然だろう。

「もうっ、埒が空かないわ! ガウリイ!!」

「引くか!?」

「ええ! このままやり合っていても、あたし達の体力が削られるだけ。
いったん退いて作戦練り直すわよっ!!」

口の中で翔風界の呪文を唱えながら、ガウリイの元へと駆け寄り・・・。



ゾワリ。



項の辺りに、果てしなく冷たい感覚が疾る。



「リナ!!」

ずしゃっ!

身体のあちこちに走る痛みに、完成間際だった呪文は強制キャンセル。

が、そんな事よりも。

「ガウリイ!!」

背後からの集中砲火に狙われたあたしを庇おうとしたのか。

さっきいた場所から駆け寄り、そのままあたしを胸に抱き込み地に伏した彼の。

「ダメージは喰らってない! リナ!!」

バサリ。

焦げた臭いが酷く漂い、無残に散り零れる金色の束。

「レイ・ウィング!!」

痛い位強く抱き込まれたまま、あたしは飛翔の呪文を発動、急いで空へと舞い上がった。



「一気に片付けるわよ!! ガウリイ、あんた本当に大丈夫なんでしょうね!?」

無理やり顔を上げ、彼の状態を確認する。

「やられたのは髪だけだ、問題ない。
それよりどうする? このままじゃ奴ら、近くの街まで着いちまうぞ!」

緊迫した声を発し、大地に蠢くデーモン達を睨みつけるガウリイ。

「・・・この際贅沢は言ってらんないわよね。ガウリイ、一発大きいの行くわよ!!」

飛び交う炎の矢をかわしつつ奴らから少し距離を取り、手頃な樹上に着地。

急いでカオス・ワードを唱える。



「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの」

ぼひゅっ!!

足元まで迫った魔族の攻撃を、ガウリイが斬り飛ばしてくれているうちに。

「時の流れに埋もれし 偉大なる汝の名において・・・」

……よくも、やってくれたわね。

「我が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに・・・」

この落とし前は、高くつくわよ!!

「・・・滅びを与えん事を! ドラグ・スレイブ!!」






紅い爆光が総ての敵を喰らい尽くし。

ようやく、戦いは終わった。






宿までは呪文で移動して、そのままお互い返り血と泥に塗れた服を着替えて
ついでにさっぱり一風呂浴びて。

宿の主人が用意してくれた夜食を平らげたのがさっき。

そして今、ガウリイはあたしの部屋を訪れている。



「・・・思いっきり、やられちゃったわね」

あの戦闘で。それもあたしを庇ったあの時だろう、綺麗だったガウリイの髪は
無残に焦げて、見るも無残に焼き切れていた。

炎の矢が掠ったのか、太腿の辺りまであった長髪が右半分だけ、
ブッツリ肩口辺りまで短くなってしまっている。

「ま、怪我しなかっただけいいんじゃないか?」

ガウリイは焼け焦げた毛先を持ち上げて、のんきに笑っているけど。

「・・・もしこれが、髪だけで済んでなかったら?」
あんたはあたしの所為で死んじゃってたかも知れないのよ!?」

喚いてしまいたいのを、無理やり飲み込み押さえつける。

きっと、ガウリイはあたしの気持ちなんて判りやしないんだから。






「済んだ事はもういいんだ。それよりリナが無事で良かった、
もしお前さんに当たってたらと思うとゾッとする」

だから、もう、言うな。

言葉には出さなかった。

でも、彼の目がそう言っていた。

優しくて、そして強い眼差しが、ひたりとあたしに向けられていた。



「・・・じゃあ、お礼に髪、整えてあげるわね」

「ああ、頼む。 いっそ肩につかない位までバッサリやってくれ」

小刀をあたしに手渡し、そのまま背を向けどっかりと床に座り込むガウリイ。

その広い肩に、そっと自分の手を置いて。

あたしはそのまま、ガウリイの広い背中に額をつけて凭れかかった。

「・・・リナ?」

「『護ってくれて、ありがとう』位、言わせてよね。・・・サンキュ、ガウリイ」

でも、お願い。

お願いだから、あたしを庇って死なないで。

生きるのも二人、死ぬ時も二人、なんだから。

あたしはもう、あんたがいなくちゃダメなんだから。



そろりとあたしの手に重ねられた温もり、それは。

「ほら、オレはちゃんと生きているだろ?」

ギュッと、繋いだ手はちゃんと力強くあたしを捕らえて離さない。

そんな当たり前の事が、涙が出そうなほどに嬉しかった。











LEMET 春日野空さん宅の断髪企画に参加させていただいたお話です。
空さんのサイト閉鎖に伴い、転載許可をいただきましたので再展示。
当時空さんに描いていただいたイラストがお宝部屋に展示してありますv