バレンタインキッスはまだ遠い!?





まだまだ遠い告白予定日は来月2回目の日曜日。

今年に限ってなんてタイミングなんだろうと溜息を一つ落として、
あたしは今日も仕事帰りにプレゼントを物色する。

欲しいものとか好きなものとか相手の事を知りすぎてるのも考えもので、
あいつの喜ぶものは大抵一度は贈り済み。

また来てしまった高級チョコの特設売り場のBGMは昔懐かし
「バレンタイン・キス」

『髪に真っ赤なリボンをかけて、そっと忍んで彼の部屋♪』

それってヘタすりゃただの不法侵入じゃないの?

などと聞き慣れ過ぎたメロディとフレーズに突っ込みをいれた瞬間、
「リナはロマンがない!」って突っ込み返されたイヤな記憶が蘇る。




ここのところ休日のあいつは居所不明。

携帯も普通に不通で友人達とも休日限定音信不通。

部屋に居る気配がないから出かけているのは確実だけど、誰にも何にも話さないまま
あいつが何かをするなんて、今までだったらありえない。

今じゃあひそかな噂が立つ始末。

「とうとうガウリイにも春が来たらしい」って。

じゃああたしにも春が来たって良さそうなものなのにと、すっかり心の中はブリザード、
暴風暴雪波浪警報絶賛継続発令中。

「誰とどこで何しているの?」

素直に聞けたらどんなにいいか。

聞けない自分にも腹が立つ。

だから今年は行動しようと思ったのに!

なんで、どうしてバレンタインが日曜日なのよ!!



にぎやかな売り場に甘く漂うチョコレートの香り。

喧騒、音楽、足音、話し声。

・・・・・・なんであたし、ここにいるんだろう。

急に冷えた頭を振って、踵を返してまっすぐ駅へと向かう。

前方不注意、我ながら情けないとは思うけど。

床を睨んで早足で、地下街コンコース中央突破を敢行して。

不器用そうにチラシを配る、茶色い大きな熊の背中にぶつかった。

ごめんなさい、そう口にするより早く、
視界が暖かそうな茶色に埋め尽くされる。

今見ているのは夢、それとも幻?

あたしが埋もれる茶色い塊の更に上、被り物をはずした着ぐるみの中から
金の頭が見えて、あたしの方を振り返った。



あんまり文句を言うもんだから司祭様が手を回したのよ、
とは教会の娘であるアメリアの談。

せっかくリナを驚かそうと思ってたのにと笑った人は、ずっとあたしの手を握ったまま。

19日も早まったバレンタイン、こいつに渡したプレゼントはない。

貰ったのは、キスと告白と謝罪の言葉。



「今週来週は無理だけど、14日はずっと一緒にいような」

教会からの帰り道。

大きな手に髪を撫でられて吐息が零れた。

淡い期待が約束を得て、深く鮮やかに艶色を増す。



まだ何にも渡していないんだから、その日は飛び切りの贈り物を。

磨いて飾って、全部あんたにあげるわガウリイ。



覚悟してねと呟いたなら、微笑む彼の唇が。

『了解』

確かに、そう、形作った。