あたしの纏う夜着の裾をおもむろにつまみあげると、ガウリイは
「これだけじゃ寒くないか?」と
自分の上着を脱いで着せ掛けてくれた。

うん、確かにこの方があったかい…けど、それじゃああんたは? 

ろくな寝具も暖房器具もないこの部屋で眠るのに、アンダーシャツだけの上半身と、
薄い生地のズボンだけじゃあ幾ら体力お化けのガウリイだとて
悪い風邪でも引きかねない。

なんといってもここは北の果て、
魔王シャブラニグドゥの封印の地カタート山脈の麓である。

ここが人家の存在する北限らしく、寂れた村には数軒の民家と、
この時期にだけ採れる薬草採取の基地として使われる簡素な宿が一軒あるだけ。

初雪の降る前にはここの住人達は南に少し下った場所に
ある村に移動し、そこで冬を越す。

どちらかといえばこちらの方が仮の住まいであり、冬の家こそが本宅らしい。

今回あたし達がこの村を訪れたのも、どうしても必要な薬草を入手するため。

そこらのマジックショップでは扱っていない品であり、良質なものを
確実に手に入れるには産地を訪れるのが一番の近道なわけで
初秋の日中ですら重ね着が必要な気候のこの地を訪れたのだ。



常にあたしを気遣ってくれるのはありがたいんだけど、最近は
以前の保護者っぷりとは別種の過保護が暴走している気がしてならなくて、
さりとて寒さは確実に身に染みて。

それに上着を返したとしても彼が受け取らないのは過去の実績で証明済み。

この場合、穏便に朝を迎えるための選択肢は僅かしかなく、
概ねそれは多少の気恥ずかしさを伴うものであったり、する。



古典的というなかれ。


実際これが一番安易で、かつ、効果も抜群なんだからしょーがない。

そりゃあまぁ、その、人肌で温めあうって行為に躊躇いを覚える関係でも
既になくなっているわけだし、その提案を口にするとあからさまにガウリイは喜ぶし。

「じゃあ、もう寝るか!」

ウキウキと枕を整え毛布をはぐって一足先にベッドに横たわると、
ガウリイは柔らかな視線をあたしに向けつつ自分の左側を
トントン、と軽く叩いてにっこりと笑う。

『ここにおいで』と。

寒さと疲れを言い訳にして、あたしはそろりとベッドに上がり腰を下ろすと、
待ちかねたようにぶっとい腕が腰に巻きつき抗いがたい力で引き寄せられて
あっという間にいつもの定位置に収まっていたりする。

「もっとひっつけばいいのに」

可笑しそうにクツクツ笑う相棒のわき腹を軽く抓ると、おイタはいかんぞ?と
身動きできないくらいぎゅうと抱きしめられる。

よしよし、今夜も先に言い出さなかったあたしの勝ち。

眠るために目を閉じて、内心にんまりと笑ったあたしは、しかし
数分後ジタバタと暴れるハメになる。

「悪戯娘にはオシオキだよな♪」

意地悪な笑みをわざと浮かべてあたしの上に圧し掛かり、
いそいそと魔の手を伸ばしてくる元自称保護者殿には
どう足掻いても到底勝てっこなくて。

ごめんなさいの代わりの頬へのキスは、そのまま深い口付けへと移行して。

熱烈な行為に翻弄されるうちに、いつしかあたしは眠りの淵に誘われてしまったらしい。

朝の目覚めは心地よいけだるさと、離れがたい温もりに包まれていて。

目的を後回しにして、もう少しだけと毛布をひっかぶり、
逞しい脚に冷たい足を絡めてもう一度、目を閉じた。