注意書き

1、このお話はざっくり言って死にものです。

2、不快な表現やグロい表現がけっこう登場します。

3、読んでから「あんなもの読ませるな、サイトに載せるな」という
苦情は受け付けませんし聞きません。
反対にぜんぜんグロくないわ!!という苦情もいりません。

4、はっきりいって元ネタである原作の良さを生かせていない、
書いた本人だけ満足いっぱいの雰囲気小話です。



それでもよいよ、って方のみ、このまま進んでください。
止めとくわ、って方はプラウザでお戻り下さい。

































































心なんていらなかった。

仲間なんて要らなかった。

あたしは一人で生きていける。そう思ってた。

だけど……もう一度、出会ってしまった。

心を通わせることのできる人間達に。





闇の中であたしは生まれた。

それがいつの事だったのか、どうしてそうなったのかはわからない。

ただ、気づいた時にはもう、泥のように重く凝った暗がりの底からずるずると這い出していた。

身につけるものも頼るものも、行くあても、なにもなかった。

それどころか、なにもないということを知りもしなかった。

ふらふらと外をさまよっているところを保護された。

素裸で歩いていたあたしを最初に呼び止めたのは人間の女性だった。

もちろん当時のあたしは彼女が人間だということも、
それ以前に生物であることもわかっちゃいなかった。

奇妙な鳴き声をあげながら近寄ってきたそれは、
あたしの身体を柔らかな何かで包んでどこかへと連れて行った。

当時はなにがなんだかわからなくて、とりあえず不快ではないからと
されるがままになってたっけ。

あたしに記憶がないと知ったその人は何も知らず何も出来ないあたしを
そのまま住まわせて、身なりを整えてくれながら日常の事を少しずつ教えてくれた。

一ヶ月が過ぎる頃、最低限の知識を持ったあたしは、彼女の家に別れを告げて旅に出た。

いつまでもここにいてはいけない。
あたしの中の何かがそう叫んだから。






あてどなく続く街道に沿って足を動かしていると、脇の茂みからいきなり男達が現れた。

彼らは口々にわけのわからないことを叫びながらあたしに掴みかかってきた。

『知らない人にはついていってはだめよ』
彼女の教えを思い出したあたしは、踵を返して歩み去ろうとしたのだけど。

「×××××」

耳障りな音を立ててあたしの周りを取り囲んだ男達は、
不快な顔をいっそう不愉快な形に変えてあたしに迫ってきた。

「あっちにいって」

拒絶の音を口に出しても男達は下がろうとしない。

だから、あたしはアタシに許可を与えた。

コレは敵、だから×××にしてもよいものである。と。






少しの時間が過ぎた後、あたしは一人で街道を北に向かって進んでいた。

少しばかりの荷物と食料の入ったずた袋を提げて。

「この先にあるのはセイルーン。その先はゼフィーリア」

得たばかりの知識を唇に乗せ、行く道の先をまっすぐに見据えれば、
遠くに見えるは都市を覆う砂色の城壁。

飢えから解放されたばかりのあたしは上機嫌のまま歩き続け、
夕闇が空を覆う頃にその都市の門をくぐった。

ココは騒がしくて×××してもよさそうなやつらがたくさんいた。

そこらをほっつきあるいていればあちらの方から近づいてくるので、
それをひっかけて×××する。

夜目が利くあたしは奴らが近づいてくる度に幾度か唇を動かせばよかった。

そうすれば殆どの男たちはあたしの腕を取って、
自ら人気のない場所に連れて行ってくれるのだから。






だけど今日はもう、これ以上はいらないかな。

充分に満ちたお腹を擦りながらあたしは安全な場所を求めて街路を歩いていた。

旅に出て以来急速に増え続ける知識のお陰でここがどこなのかも、
安全な場所=宿屋であるということわかっている。

×××した奴等から巻き上げた金貨を掌で弄びながら、
もっとも贅沢な作りの宿を目指した。






通された部屋には大きなベッドが据えられていた。

今日一日で随分と増えた荷物をその上に降ろして、
べたつく身体に濡れタオルを当てて清めることにした。

受付の人間に見られないよう上着で隠してはいたが、
喉も胸元もお腹の辺りまであたしの服はくすんだ赤に染まっていて
乾き始めた端の方がごわついて気持ち悪かった。

衣服を脱ぎ去り、脱衣所に向かう。

本来人間はこの小部屋で服を脱ぐらしいのだがアタシには関係がなかった。

したいときにしたいようにするばいいのだ。ここにはあたし以外の誰もいない。

脱衣所を通り過ぎれば湯浴みのできる小部屋があった。

大きなたらいに張られたお湯に末端を浸すとじんわりと心地よくなって
、勝手に頬が緩んでしまう。

もっと気持ちよくなりたくて湯が溢れるのも構わずにザブリとたらいの中に腰を下ろして
腕や足、身体のいたるところをくまなく掌でこすって回る。

時折湯を掬って肩にかけると、それは赤い湯となって肌の上を
滑り落ちてたらいの湯を淡く染めた。

しばらく行為を繰り返して肌の上から赤い汚れが全部落ちたのを確認して、
湯の中から出ることにした。

「……臭い」

鼻から空気を吸い込むと鉄錆のような、と、表現するらしい臭いを感知した。

どことなく不愉快なにおいを臭いと表現するらしい。

この『臭い』を追いやるのは、臭いの元をどければいい。

たらいを傾けて赤く汚れた湯を穴の中に全部流すと臭いは少し弱くなり、
満足したあたしはタオルを手に部屋へと戻る。

今日は一時にいろんな事を知りすぎたかなと、ベッドに横たわり知識の整理を試みる。

重複した情報はより理解しやすいものを残して消去、女性体らしい
あたしに必要のない男性特有の知識や欲望の記憶は一部を除いて消去する。






どうしようもなく餓えていた頃はなりふり構わず獲物を×××しつづけていた。

その頃に比べれば今は狩りもうまくなったものだ。

締め付けの少ない衣服をまとって夜の道を歩いていれば
獲物の方から近づいてきてくれるのだから。

目を閉じて、明日の行き先を決めるために脳髄から知識の束を引っ張り出す。

女性体の記憶は最初にあたしを拾ってくれたあの人のものしかなくて
時々不便だったりもするが、一人旅を続けるには男性体の知識の方がより役に立つ。

弱い個体を追い掛け回して喜ぶような奴らばかりを摂取したせいで
あたしの精神も荒くささくれている気になる。

どうしたものか、いらないものを少し捨ててしまおうか。

あたしは自らの左手を頭の後ろに押し当てて、そのままぐっと押し込んだ。

するとぐにゃりとした手ごたえと共に硬い殻のようなものを突き破り、
指先が望みの場所にたどり着くので、不必要と思しき部分を爪先でえぐって取り出し、
窓から外に放り出した。

べちゃり。

外から聞こえた音さえも不愉快で窓を閉めて、ベッドに横たわって目を閉じる。

肌に触れている乾いた布の感触が心地よくて、アタシの意識はすぐに途絶えた。






翌朝、外の騒がしさで目覚めたあたしは、自分のしたことのうかつさに顔をしかめた。

一晩の眠りがあたしの中の知識を馴染ませた。

お陰で、今まで判らなかった事の良し悪しがわかるようになったのだ。

昨夜寝る前にアレを捨てたのは失敗だった。

必要のないものではあったけれど処理の仕方がマズすぎた。

昨日一日で×××した奴等の残骸も今頃は見つかっているかもしれない。

いち、にい、さん、し。

数が片手を越えた時点で数えるのを止めて、
昨日脱ぎ散らかしたまま放置していた服を手にとる。

血の汚れがこびりついたそれは着用を躊躇わせて、しょうがなくあたしは
クロゼットの中から宿のパジャマを取り出して袖を通した。

その上からマントを羽織り、前を合わせればパジャマは見えなくなる。

早くこの町を出よう。

面倒なことにならないうちに。






荷物を纏めて汚れた服は丸めて荷物袋の奥に押し込んで、
靴を履いて部屋を出ようと扉に手をかけたときだった。

「ここか? 怪しい女が泊まっているってのは」

外から複数の気配と、ぼそぼそと押し殺した声が聞こえたのは。

昨日しでかしたことがばれたらしい。

そっと足音を殺して扉の前から離れる。

幸い鍵をかけていたからいきなり踏み込まれることはあるまい。

そう思っていたのに、勢い良く開いた扉と、その向こうにいた集団が
こちらを見て奇声をあげた。

「魔女だ!! 魔女がいるぞ!!」

手に得物を持った男達が一気になだれ込んでくるのを微笑みで迎え、
あたしは両手を広げてカオス・ワードを口ずさむ。

『魅了』

魔力を込めた呪文を唱え終わったのと、彼らがあたしに触れたのはほぼ同時。

髪に指を触れさせた男は怒りの表情を一転させて腑抜けた顔をあたしの前に晒した。

他の男達も同様で、手の中の得物をバタバタと取り落として
あたしの前に傅きトロンとした目でこちらを見やるばかり。

こいつらも食べてしまっても構わなかったのだが、
あいにくまだ空腹ではなかったから手をつけずに外に出る。

廊下に出ると遠巻きにたくさんの視線を感じた。

ぐるりと辺りを見回すと階下へと降りる階段に群れる人間達と視線が合う。

凍りついたように動かない人間達に手を振って見せれば、
途端に時間が動き出したかのように慌しく階段を駆け下りていく。

どうせ食べないのだし。

放っておいてくれればもうなにもしやしないのに。

面倒くさいのはキライ。

だからあたしはまっすぐに階段を下りて、物陰から恐々と
こちらを伺う人間達に構うことなく外に出たのだが。



ドンっ!!



最初は何が起きたのか判らなかった。

焼ける様な感覚がお腹にうまれ、みるみるうちに広がっていく。

『・・・え?』

熱い箇所に手をやると、そこには今までなかったものが触れた。

視線を下に向けると、それは長くて硬い・・・金属の刃だった。

「魔女め!! 大人しく滅びるがいい!!」

叫んだ誰かの声に同調して、周囲から歓声が巻き起こる。



……なんだ、刺されたのか。

そう口を開こうとした瞬間、背中側から脇、真正面からも更に数度の衝撃に襲われる。

あたしは剣山か? そう愚痴りたくなる程の刃があたしの身体に突き立てられる。

こぽり。

喉をせりあがった熱いものが口の端から零れて地面に染みを作った。

「魔女を討ち取ったぞ!!」
「仇はとったぞ!!」
「「死ね、死んでしまえ魔女め!!」」

喚き散らす人々の合唱が他の音を掻き消して、あたしは俯き
ゆっくりと地面に膝をつき、路上に転がり横たわった。

弱りきった獲物に止めを刺そうと包囲の輪を縮めて近寄ってくる人間達。

……愚かだわ。

あたしが人喰いと知りながら近づいてくるなんて。

無造作に手を伸ばし、一人の男の足首に触れて、突き立てた爪で一気に肉を抉り取った。

途端にそいつは豚のような雄たけびをあげ、恐れをなしたのか一気に人垣が退いていく。

流れた血に怯えて静まり返る周囲に気を良くして、
あたしはことさらゆっくりと立ち上がり、身体を貫く邪魔な刃に手をかけ力を込めた。

ぬるりとした感触を伝えながら、刃はあたしの骨を軋ませ肉を巻き込んで、
切っ先が抜けると同時に多量の体液を撒き散らす。

ぼたぼたと流れる体液を指先で拭い口に入れると、馬鹿みたいに鉄臭くて、
濃厚で、しつこいくらいに甘ったるい。

我ながら栄養過多もいいところだわ。

含んだものを唾ごと吐き出し外に繋がる城門に向かって歩き出すと、
遠巻きに取り囲むようにしている群衆達が怯えた視線を向けながら
恐る恐るあたしの後をついてくる。

こういうのを送り狼っていうのかしら?

波が引くように行く先々で人間達が退いていくのを眺めながら、
身体に突き立つ様々な凶器を取り払い投げ捨てていく。

どうせ傷はすぐに塞がる。

塞がらなくなったらまた人間を食べればいい。

そうやってあたしは、いつの日にか朽ち果てるまで生き続けるのだろうから。

城門をくぐる頃には、遠巻きに黒山の人だかりが出来ていた。

あれが魔女だ、殺人鬼だと声高に叫ぶ奴等。

手に武器を持ち、攻撃を試みようとして止められているものもいる。

どうでもいいけど、五月蝿すぎる。

口の中で呪文を唱え始めると、あたしがなにをしようとしているのか判ったらしい。

人間が、悲鳴をあげて逃げ出していく。



そうよ。

敵視するなら近寄らないで。

あたしは、あんた達には興味ないの。

欲しいのは、いつかあの人が話してくれた美しいもの。

それは見ているだけでもう何もいらなくなるくらい胸の奥が満ち足りるのだと教えてくれた。

人は人を殺す。

人は動物を殺す。

人は植物も殺すくせに、どうしてあたしが人を食べるのを恐れるのだろう。

あたしはただ、それを見つけるまでに必要な分をほんの僅かだけ、
自身の存続の為にそうしているだけなのに。






「世界をみていらっしゃい。そうすればいつかきっと、あなたの手を取る人が見つかるわ」

彼女はその言葉を最後に、二度と目を開く事はなかった。

あたしに自分を食べるようにと言ってくれた初めての人。

優しくて脆い、儚くて美味しい人間だった。

あんまりにも美味しくて、でも食べることで彼女がなくなってしまうのは悲しかったが
食べなくても失われるのだと聞かされていたから、
あたしは、泣きながら最後の一欠けらまで残さずに彼女を貪りつくした。

思えばそれは彼女の命が失われてもあたしの中で生き続けられるかもしれないという、
希望であり願いだったのかもしれない。

彼女を内から蝕んでいた組織はあたしの中で眠っている。

いつか、これを起こす日がくるのかもしれない。

宿主を内側から侵食して増殖し、共に滅びの道を歩む種子。

唯一あたしを滅ぼすもの。
















そうして、長い長い時間が流れて。

あたしはまた、一人の人間に出会った。

一緒に時を過ごし、いろんな事件に巻き込まれたりしながら生活を共にした。

その人は、あたしの本性を知っても去りはしなかった。

あたしのした行いを許しはしなかったけれど、だからといって責めもせず。

「どうしても腹が減って人間を喰いたくなったら、真っ先にオレを喰えよ」

そういって、優しく頭を撫でて―――






彼があたしを庇って死んだ時。

あたしは、彼を食べることはできなかった。






時間をかけて朽ちていく我が身を日がな一日眺めて過ごす。

こうやって人と同じように、時間をかけて形を喪っていくんだと思うと少し嬉しくなった。

あの人はこうなる事を望んでくれるだろうか。

あたしと混じることで永遠を生きるつもりだったんじゃないかと思うと
悪い事をしている気にもなるけれど、
あたしの中のあの人は穏やかに笑っているから、
きっとこうなっても許してくれているんだと思う。

そして、あの美しいものはとっくの昔に土に、還って……。

「あ…」

優しい手のぬくもりが、恋しい。

「あい…た…い…」

あたしを見つめて細められる青い瞳に、もう一度。

「あいたい、の。ねぇ、ガウリイ……」

いっぱいに、抱えきれぬほどに溢れ出す、あたしの中の彼の記憶。

笑った顔怒った顔幸せそうに食べる顔敵と相対したときの怖い顔呆れ顔に拗ねた顔、
クルクル変わる万華鏡みたいに輝く表情のどれもこれもが全部綺麗で、大切で。

均整の取れたからだに顔を埋めるだけでお腹が膨れてなんにもいらなくなった。

あの人の匂いを嗅ぐだけでうっとりと幸せになれた。

優しい手で髪をすいてもらうのが好きだった。

気持ちいいっていうたび照れて笑う、その声が好きだった。

綺麗な金色の髪が揺れる様も、緊張する度ぎゅっと硬くなる筋肉も
逞しい背中も太い首も割れたお腹もなにもかも。

ぜんぶぜんぶ、ほんとうにだいすきだったのに!!



ガウリイ、がうりい。ガウリイ=ガブリエフ。

あたしは、もう一度あんたに、あんただけに会いたいのに……!!

「どうしてあたしは、あんたにあんなことを!!」

後悔の叫びは、もうあんたに届かない。



ごめんね。








その時が近いのか、一呼吸ごとに意識が薄くなり、遠のいていく。

誰もいない、荒野みたいな場所をさまよいつづけるのはもうごめんだし。
一緒に過ごした時間が宝物になりすぎて、これ以上なんにもいらなくなっちゃった。

あんたとの思い出を抱いて、あたしはココで朽ちて果てるわ。

果てのない世界に置き去りなんてそんな罰はいやだから、
永遠に一人でいるよりこれがいい。

記憶を飛ばして孤独から逃げだす事も、雲霞のように湧く敵対者を全部倒して、
ココじゃない場所で最初から始める事もできるけど。

でも、やっぱり。あたしはもう、これでいいや。

ガシャン。

彼がいなくなってからずっと持ち歩いていた剣を手に取った。

手入れなんてわからないからあちこちに錆が浮いて酷い有様になっちゃってるけど、
コレのお陰でずっとあんたを感じていられた。

大好きよ、ガウリイ。

あたしという存在を、許してくれてありがとう。






両腕で錆付いた剣を抱いて、ずるずると床に座りこむ。

思い出す。

生きること。

生き飽きるまで世界を彷徨い歩くこと。

恐くて、愛しくて、厳しくて、優しくて、美しくて、醜くて、呆れる位に脆いくせに
自分以外の存在を守りたがったりいともたやすく仲間を裏切りもする。
そしてその総てをいつしか時間の彼方に流してしまえるような。

そんな人間達を、あたしはうらやましくてしかたがなかったんだと、
彼と過ごすうちに気付いていって。

彼と出会い、そして失うまで分からなかったあたしの長い永い旅の
終わりが、今、ようやく見つかったのだと――――





「リナ!!」

あの人の、ガウリイの声が、聞こえた気がした。

ああ、迎えに来てくれたのね。

「リナ、ほら、こっちだ」

手を取り起こしてくれたあたしだけの人は、どこもかしこも最後に見たときのままで。

「ほら、そんなことしてないで一緒に行こうぜ。
あっちにそりゃあもう、凄く綺麗な所があるんだ」

あたしの手を握ったまま、鮮烈な光が満ちる方へとかろやかに駆け出す
背中を追いかけて、走って、追いついて。

「ガウリイっ!!!!!」

思いの丈ごとぶつけるみたいに抱きついた。










「リナ……さん。やっと、逝けたんですね」

「……オレ達もいつか、あいつらと同じところに行くんだ。だから泣くな」

「はい、そうですよね。そう、なんですよね……」

身体を失い、最後に残った意識だけで頼りなく宙に浮かんでいたら、
顔なじみの二人がやってきた。

こんな風に、あたしの消失を悼んでくれるなんて、ね。

二人とも、最初は人食いであるあたしを憎んでいたのに。

ほんと、人間って不思議。

「そろそろ行こう。二人とも、ずっと未来で会えるから」

「……そうね。ガウリイ」

促されて、あたしの死を悼んでくれる二人にさよならを告げて、歩き出す。

ずっと抱えてきたぐちゃまぜの感情の中から、
たった一つ残った『愛しい』という純粋な思いを抱いて。