『なんて軽いんだろう』
彼女を抱きあげて最初に思ったのがこれだ。

ごてごてとしたショルダーガードやら、でっかいだけに見える宝石の護符。
バサバサ広がるマントに癖のある長い髪とか、どこにいても人目を引く圧倒的な
存在感を全部取っ払ってしまうと、彼女はこんなにも華奢で、ちょっとでも強く手を引こうものなら
簡単に骨でも折ってしまいそうで怖い位だ。


苦しげに瞼を閉じ、額に脂汗を浮かべてオレのブレストアーマーに縋る
ほっそりとした指先は、すっかり血の気が失せて紙のように白い。

痛みを堪え戦慄く唇は、いつものお喋りな様子など微塵も感じさせずに
キリキリと食い縛られて苦しげで。

「呪文が効いてきているから大丈夫」

オレに気を使ったのか、見事なやせ我慢を演じていた彼女は、やっと身体から力を抜き始めている。
恐る恐るといった様子で、重心をオレの方に傾けだしたのだ。

出会ってまだ少ししか経っていない。

小柄で大胆で、とにかく良く食い良く動き良く喋る少女は、
どうも一筋縄でいくような相手ではないらしい。
それはあの夜のキメラ男との堂々たる駆け引き、会話術からも伺える。

彼女の右手は傷口に当てられていて。
しかし、もはやそこに魔力の光は灯されていなかった。
一応傷は塞がったらしく、そこで集中が切れたのか、『手当て』の語源そのままに
『癒す』ために手を添えている。

幼さの残った丸い頬にも血の気は感じられず、やや青い。
呼吸は安定しているものの、一刻も早くゆっくり休める場所が必要だろう。

なんか、目が離せない奴だと思う。
いつから一人旅をしていたのか知らないが、よくもまぁここまで無事でいられたものだ。
危ない事に首を突っ込むのが好きだなんて、普通の女、いや、男だってまずやらない。
よほど腕に自信があろうが、それを日常とするような酔狂さは大人にはないものだから。

「・・・保護、してやらんとなぁ」

希少な野生動物のような少女。
甘く見たら噛みつかれるかもしれないが、今のオレには手が掛かる位でちょうどいいのかもしれない。




遠くで、鳥が高らかに鳴いた。
それが正解だと、告げるように。