「あんたを見つめるだけでどうしてこんなにドキドキするの?」

ほわりと頬を染めた彼女に真顔で尋ねられては、どう答えたものかと戸惑ってしまう。


普段の彼女ならこんな事は言わない。
万が一言ったとしてもその時は顔中、いや、下手すりゃ全身真っ赤に染まるだろう。

軽く屈みこんで鼻を近づけると、ほんのり漂うアルコール臭。

つまり、酒の勢いで素直になっているのか。

はたまた純粋に疑問に思ったのか。

後者の場合も、実はあり得ない話ではない。

先日、大真面目に「男の人って、シないと病気になるって本当?」などと
聞かれた時には、面喰って椅子ごとひっくり返ったっけか。


その時の誤解は解けたけど、恋人同士という関係になったとはいえ
未だ同衾するまでには至っていないオレ達にしては、かなり際どい会話だった。


「男性の生理学についてはそれほど知識がなくて」と真顔で話す様子からして、
先はまだまだ遠く険しい道のりだと乾いた笑いが口から洩れまくった。

しかし、だ。
逆に捉えれば、こういう質問をしてくる=そういう経験がない証。
リナの最初で最後の恋人としては嬉しいんだが
一から十まで全部手取り足取りオレ色に染めてもいいのか?

酔いからくる、とろんとした目つきと甘くバラ色に染まった頬が魅惑的な、
最愛の恋人で最高の相棒でもあるリナ=インバースは。

「いただきます」と。

お辞儀したと思ったら、オレの頬を両手でつかんで固定して、
自分はつま先立ちになって・・・オレの唇に自分のそれを押し付けた。

次の瞬間、さっと身を引いて「ごちそうさまでした」と満面の笑みを浮かべ。
「じゃあ、あたしは寝るね。ガウリイ、おやすみ〜♪」
ぴらりんvと手を振って離れていってしまう。

一人上機嫌で部屋に戻っていく小さな背中を見つめて、
ポケッと唇に手を当ててるオレの方が、まるで初な小娘みたいじゃないかよ!



「挑発するならオレにも「いただきます」させてくれー!!」


隣室から聞こえた絶叫の悶絶っぷりに「ああ、あのまま帰ってきて良かったわ」と、
こっそり舌を出し笑った娘は、悠々と厚い布団に潜り込んで、
一人穏やかな夢の中へと旅立ちましたとさ。