彼女の摘んだ糸の先には紡錘形の金属が下がっていた。

何やら難しい顔をして机の上に広げた地図の上を、
ゆっくり舐めるように移動させては止めて、また動かして。

「なあ、何やってるんだ?」

「ダウジング」

簡潔すぎる返答に苦笑しつつ「その、ダンシングってやつで何か分かるのか?」とボケてみる。

「ダンシングじゃなくて、ダウジング。これで良い反応がでたとこに行こうかなって」


「それで次の目的地を決めてるのか?」
ダウジングってのはL字型の針金を2本、両手で持って歩いて、
勝手に先が開いた場所から水が出るとか出ないとかって言ってたなぁ・・・。
ふーん、こういうやりかたもあるのか。

「反応って、何に反応するんだ?」
まさか盗賊のアジトとか言わないだろうな?

「んー。美味しいごはんのありか〜」

「それならオレも楽しみだぞ♪」

「あと、住みやすい土地かどうかってのも」

「そっか、住むのか〜って、ええっ!?」
あまりにもさらりと言われたので一瞬反応が遅れた。

「うえっ!? ちょ、リナ!? お前まさかそこに定住するつもりなのか!?」

「そーよ。そんで、ガウリイ間違ってる。あたしとあんたで住むんだって」
あくまで平静を装いつつも、リナのうなじは既に赤く染まっているし、
小刻みに震える指の動きが糸に伝わり、既に探索どころではなくなっている。

「二人でそこに住むのは一向に構わんが、急にどうしたんだ?」

そりゃあ、二人旅を続けてもう5年にもなるし実家の親父さんにも
「いい加減孫の顔位見せやがれ」とかせっつかれたりもしていたが、
リナは「まだまだあたしは世界ってやつをこの目で見て、
その土地の美味しいものとかたくさん食べたりして楽しみたいの!」
って言ってたろうに。

「・・・あの、ね」

ここにはオレとリナしかいないのに、「もっと近くに来て」と呼ばれて。

小声で告げられた事実に、オレは浮かれに浮かれて盛大にリナを抱きしめて、
抱き上げてキスをして、嬉しいと叫び、またキスをしたところでリナにしこたまどつかれた。

「もうっ! びっくりするじゃない!!」

絶対に照れ隠しも含まれてるだろう怒りっぷりも、
めちゃめちゃ可愛いと思っちまうのは惚れた欲目だろうか。

跪き、まだ膨らみはないお腹に手を置き、耳を押し当てると、
トクトクトク・・・。優しい音が聞こえてきた。

「ありがとう、な」

「どういたしまして」

二人が幸せそうに笑いあい、慈しみの籠った抱擁を交わす横で。

すっかり忘れ去られた糸の先。
銀色の標は、まっすぐに彼らの方を指し示していた。










(おまけ・・・になってるのかは判りませんが)






リナが、何やら難しい顔で地図を睨んでいた。

次の目的地でも決めているのだろうかと剣の手入れをしながら様子を窺っていると、
片手を伸ばして荷物袋の中を探りだした。

視線は地図に落としたままやっているもんだから、中々探しものは出てこない。

「何探してるんだ?」

しょうがないなと、荷物袋を奪って聞いてみると、「中にちっちゃな皮袋があるのよ」と。

袋の口を大きく開ければ何の事はない、一番奥の隅っこに小さくなって
突っ込まれていたそれを取って渡す。


「ありがと」

中から出てきたのは、銀色の小さな矢じりのようなもの。

尖った先端を下に向ける形で吊下げられるようになっている。
細い糸でぷらんとぶら下げたそれをリナは地図の上に持っていき、
目を閉じ呼吸を整えて、鋭く言った。


「ナーガが絶対に来られない場所を示せ!!」と。

「ナーガって誰なんだ?」

「・・・世の中には、知らない方がいいこともあるのよ」

真剣な顔で地図と矢じりの示す先を凝視するリナに、
オレが言えることは何もなかった。