「今、テレビつけてますか?」

キッパリ、ハキハキがモットーの彼女の声。
電話越しでも元気が有り余っている様子が伝わってくる。

「さっきの特集で見たんですけど、リナさんは男性向けの物って何か使ってますか?」

問われてチラと視線をやった先には新聞のTV欄。
いつも彼女が見ている番組項目を眼で追うと確かにそんな特集が流れたようだ。

「それってあぶら取り紙とか毛穴パックとかシャンプーとかでしょ?
そりゃ同じ値段なら性能の良い方を選ぶわよ」


もうすぐ寝る時間なんだけどなと思いつつ、お喋りを続けながら洗面所に向かう。

「で、具体的には?」

「そんなの聞いてどうすんのよ?」

「良さそうなものがあったら今度試してみようと思って」

「じゃあ、今度ゼルんちに遊びに行った時にでも試させてもらえばいいじゃない」

「ダメですって!そんな事ゼルガディスさんに頼めませんよ!!」

・・・この娘は一体何を試したいんだか。

「とりあえず今からお風呂入るからまたあとで」

さらっと通話終了の宣告をして即実行。
やれやれ、最近寒さが増してきたらしっかり温まらないと寝つきが悪いったら。

お気に入りのシャンプーと洗顔料とボディーソープで一日の疲れを落とし、
たっぷりとお湯を張った湯船には大きな塊の入浴剤を投入。

『どぽん』という音に続いて微細な発泡音と共に立ち上るハーブの香気が心地いい。

肩までどっぷりと湯に浸かり、一時の幸福を満喫していると、再び携帯が鳴った。
慌てて取った携帯を手に再び湯の中へ。

 効いてて良かった生活防水様々。

「もしもし」

「リナさん? なんだか声が籠ってません?」

「そりゃ、まだお風呂入ってるもん」

「じゃあちょうど良かったです! リナさんは、その・・・処理の時
ガウリイさんの髭剃りを借りたりしますか?」

「借りない。あいつ今時珍しい剃刀派だもん」

彼なりのこだわりなのか、ガウリイは床屋さんで使うような
本式の剃刀道具一式を大事そうに使っている。

あの、もふもふした毛ブラシでシャボンを泡立てるのは楽しそうなのよね。

「そうなんですか・・・」
あからさまに残念そうな声。

「気になるんだったら試してみればいーじゃない。
あたしが使ってるメーカーは男性用も女性用も作ってるわよ?複数刃のやつ」
そろそろのぼせちゃうかな・・・出るか。

「ありがとうございます!じゃ明日さっそく買ってみます!!」

嬉しそうな声を最後に通話終了、あたしもあとは寝るだけだ。



「おっ、もう入ってきたのか?」
寝室の扉を開くと、ガウリイがベッドの上で脱力してた。

「あんたも入ってきたら? 今日はちょっと張りこんで
良い入浴剤使ったから、しっかり温まってらっしゃいよ」

ポン、と、腰を叩いて促すと「へーい」と気の抜けた返事をして、
のたのたとお風呂に向かう後姿を見送りながら、ふと思ったのは。

「男物っていうなら、これもそうよね」

ゆったりしていて気持ちがいいからと、無断で借りた彼のシャツは
あたしが着ると、まるで膝丈ワンピース。

その下にはあたし専用に買ったSサイズのトランクスも履いていたりするのだ、これが。

アメリアだったらゼルのをそのまま借りられるかな?
明日会ったら言ってやろ。

もぞもぞお布団の中に潜り込みつつ、すっと深呼吸をひとつ。

「借りた方が気持ちいいし、落ち着くのよね」
服に、布団に染みついたガウリイの匂いを嗅いで、あたしは一人にんまりと笑った。