ハロウィンネタ 





「ちょうど良い時期に来てくれましたね!」
はしゃぎまくってあたしの手を引っ張るアメリアと
「ガウリイ様が来られると知っていたら
もっと豪華なお食事をご用意いたしましたのに」
モジモジしながらガウリイの周りを離れないシルフィール。

ここは聖王都セイルーンの旧市街、いわゆる下町ってやつだ。
メインストリートの華やかさはない代わりに、どこか懐かしいような
気安い雰囲気で旅人を迎えてくれる。

しかし、いくら治安が良くても一国の皇女が護衛もなしに城下を
歩き回るだなんて、通常では考えられない。

ま、アメリアをどうにかしようと思っても、作戦を立てるだけ無駄だろう。
旅の間に積んだ実戦経験のお蔭で、頑丈さに磨きがかかったと評判になっている。

今に父親でありこの国の第一王位継承権を持つフィリオネル殿下の得意技
『平和主義者クラッシュ』を習得するのも時間の問題だとか。

「・・・ねぇ、リナさん聞いてますか!?」

「聞いてたわよ? 今夜は内々でパーティーするから仮装してきてくれって」

「なら、いいんです。じゃあ今夜、王宮にてお待ちしてます♪」

「アメリアさん、待って下さい。 では、ガウリイ様ごきげんよう。
・・・ついでにリナさんも」

言いたい事だけ言って、二人は準備のために城へと戻り。




「・・・シルフィール。あんた段々いい根性になってきてるじゃない?」
「リナ! 市街地で呪文は止めとけ〜!!」

唱えた呪文を放つ前に、羽交い絞めにされてしまった。




あれこれ準備に追われるうちに、とっぷりと日は暮れて
迎えの馬車に揺られながら一路王宮へと向かう。

今夜は特別な夜だからと、ドレスコードも普段とは違う。
あたしの格好は白い布地のあちこちに、黒や赤茶のシミをつけた貫頭衣。
髪を垂らして顔には血色が悪く見えるよう粉を叩き、手は軽く曲げて胸の辺りで構える。

いわゆる、典型的ゴーストスタイルってやつだ。



ガウリイは、本人の強い希望でかぼちゃの着ぐるみに扮している。

髪を纏めて隠し、身体にフィットする黒いシャツとズボンを着た上から、
張りぼてのかぼちゃを被る。

さらに白いシーツをテルテル坊主のように巻きつければ、かぼちゃ王子の出来上がり。
なんつーか、あんた喜びすぎ。



「リナさんったら! もっとこう、魔女とか黒猫とか、
可愛く見える仮装にすればよかったのに!!」
パーティー会場に到着するなり、アメリアのダメ出しを喰らった。

「だって、これが一番衣装代がかからなかったのよ」
無駄な支出は敵である。

「せっかくリナさんとパーティーできるって張り切ったのに!!」
ご機嫌斜めな彼女の衣装は、なぜかミイラ娘。

かろうじて見えているのは眼球の部分だけ。

「これ、動きやすいんですよ♪」って、あんたも人の事言えないじゃない!

「ガウリイ様、リナさんこんばんは♪」

にこやかに笑いながら登場のシルフィールは・・・
いつもの服に茶色い耳とフサフサ尻尾?

「・・・分かったぞ。シルフィールのは猫娘だな!」

「ガウリイ様、これは猫ではなく狼です。狼娘、似合いませんか?」

「狼かぁ・・・。ああ、似合ってるぞ」

「嬉しいです、ガウリイ様」

かぼちゃと狼モドキが談笑の図って、なんか微妙だけど。

・・・あっちはあっちで盛り上がってるから放っておこう。




あたしのお目当ては、日頃食べられない王宮の豪華なお食事なのだ♪



「では、本日の趣向を踏まえた上で。
厳選した食材に、シェフの遊び心を加えたお料理の数々をお楽しみください!!」

バサッ!!

お料理を隠していた布が取り払われると、会場内から大きな声があがった。
むろん、あたしも。


「何よこれ〜っ!!」

テーブルを繋いで設えた台の上に色鮮やかに飾られた料理の数々。

しかし、誰一人として料理に手を伸ばす者はいなかった。









「・・・・・・」
「・・・・・・」
腕を振るったシェフには悪いが。

「・・・悪趣味」

げんなり呟いたあたしと、目を見開いたまま硬直しているアメリアとシルフィール。

「うわ。リナさん酷いっ!」

あたしの正直な感想に反応して、ようやくアメリアが正気に戻った。

「酷いって、あんただって固まってたじゃないの! だって、あれよ!?
あんなの出されて『まぁ♪ なんて美味しそう!』って喜べってのが間違いじゃない!?」

台の上、美々しい食器にたっぷりと盛り付けられていたのは。

真っ黒な肉質の鶏肉に黒トリュフのソースと、赤いスパイスの粉を
散らして仕上げたチキングリル。

大皿にドンと盛られた巨大魚の兜焼き。

卵黄をたっぷり塗って焦げ色を濃くつけたかぼちゃのパイにはナイフが突き立ち、
目の部分にはこれまた真っ赤なトマトソースが流し込まれ。

その横、たらいのなかにはどうやって纏めたのか。
太い冷麺をウニウニ積み上げた上から
どろっとしたゴマタレがたっぷりかけられていて、見た目完全に脳みそチック。

淡い茶色に焼き上げた棒状クッキーラズベリーソース添え。
(先っちょにアーモンドスライスをトッピングして爪に見立てて)

種を取ったライチの中に、同じく皮を剥いた赤ぶどうを詰めて
赤ワインシロップに浸したデザートやら(血の池に浮かぶ目玉?)

どうやって作ったのか、立体的な手の形に固められた
真っ赤なゼリー&真っ白なババロア。

もちろんこれにも潰したブルーベリーのソースが垂らされている。
(切断した手の盛り合わせ?)

etc、etc・・・。



さらに。
「・・・これ、ジョージの店の食材じゃない?」

栗のイガイガの裂け目から照れ臭そうにこちらを見ている目玉栗。
更に横には良く見えるようにと、ガラス瓶に詰められた『叫び芋』製、芋焼酎。(本体入り)

これ見て食欲の湧く人っているんだろうか・・・(汗)



「なんだ、食べないのか?」

・・・いた。

「この肉、すっげぇ美味いぜ〜? 真っ黒なのには驚いたけど、食ったら癖になるぞ!」
嬉しそうに一人料理に手をつけている奴。

あんたには躊躇とか様子見って言葉はないのか、ガウリイ。

「ガウリイ様が美味しいと仰るなら・・・」
恐々と、一番食べやすそうな指型クッキーに挑戦したのはシルフィール。

だが。

「きゃあ〜っ!!!!!」

がたたたたたたたたたんっ!! 

クッキーを摘もうとした瞬間、いきなり皿が踊り出した。

それも趣向としての悪戯だったのだろうが、仕掛けた相手が悪かった。

シルフィールは盛大に悲鳴を上げて、そのまま気を失ってしまうし、
彼女の悲鳴に驚いてパニックに陥る二次被害者も続出。



一気に騒がしくなった場内で、落ち着いているのはガウリイとアメリアのみ。

「・・・ちょっと、やりすぎちゃいました。てへっ☆」
てへ☆って、そんなどじっ子アピールしなくてよろしい!!

「アメリア! どうするのよ一体!!」

「リナさん、ガウリイさん。とにかくこのお料理を別室に運んでください。
私はその間に騒ぎを収めてみせますから、そっちお願いします!!」

「運べ、ったって・・・」そんな一度に運べるような量じゃないし。

「リナ! このテーブルの足見てみろ」
フォークで示された箇所には、移動用のキャスターが付いている。

これならいける!!って。

「あんた、まだ食べてたの?」

口いっぱいに黒いソースを引っ付けたガウリイの姿は
スプラッタと言うより完全にコメディー寄りだ。



「こちらに!!」
給仕係の人に誘導されて、「せーのっ!!」
隣室に台ごと料理を押し込んでアメリアに合図を送ると
何を思ったのか、顔面にグルグル巻きにしてあった包帯を解き始めた。

あれでどうやって騒ぎを収めるつもり?

後姿のアメリアを見守っているうちに、最後の一巻きが床に落ちる。

「皆さん、落ち着いてください!!」
会場中に響き渡るような大声で叫び、驚いた客達がアメリアの方を向いて。



一斉に硬直した。
完全なる硬直、瞬間凍結。



すすすすす・・・ぱたむ。

目の前で扉が閉まる。




「ああ・・・だからあれだけはお止め下さいと口酸っぱく申しましたのに・・・」
ハンカチで目元を拭うアメリア付きの女官に、何が起こったのかと聞いてみても
「世の中には知らない方が幸せ、というものもあるのです」と。

震えながら青い顔で首を振られてしまったのだ。



いや、これ以上の追求は止めておこう。

言うではないか、『好奇心は猫をも殺す』と。




「で、なんでリナは食べないんだ?」
この期に及んでまだ食うか、このクラゲ。

「だ・・・!!」
「ほら、食ってみりゃ美味いだろうが」

もぐもぐもぐ・・・こっくん。

「・・・悔しいけど、いけるわね」
口を開いたタイミングで突っ込まれたのは、血の池目玉シロップ漬け。

「ですから、材料をしっかり厳選して作ってありますって、
ちゃんとご説明したのに、どなたも聞いて下さらないから・・・。
しかし、悪戯の方は大成功のようですな。結構結構」

茶目っ気たっぷりに笑って登場したのは、顔馴染みの料理長。

「アメリア様からのご伝言です。 
『二人っきりでごゆっくりどうぞ』と。それから、ガウリイ様。お耳を拝借」

あたしに聴こえないように、ぽそぽそ耳打ちをして。

「・・・・・・だ、そうです」

「ああ、わかった」

「ご健闘をお祈りしております」

男二人だけで謎の会話を交わし。
料理長も、後片付けがあると出て行ってしまった。




「なんだったの?」
「ん?『お菓子は邪魔の入らないうちにどうぞ』だとさ」






この続きは、皆様のご想像にお任せいたします♪
お付き合い下さりありがとうございました!!