金魚の保護者さん





「遅いなぁ…」

人でごった返す公園の噴水の前であたしはたこ焼きをつつきながら呟いた。

国王の生誕祭が開かれているこの街でお祭りを堪能しに来たのはつい昨日の事。

昨日今日で街中に溢れる食べ物系の屋台を全て制覇して、今夜は
その中でも選りすぐりのお店だけを楽しんでいた。

「ガウリイの事だし迷ってるのかなー」

たこ焼きの最後の一個を口に放り込んで公園をぐるりと見渡す。

ガウリイがトイレに行くと人混みに消えてから何分経ったのだろう。

分かりやすいようにこの公園の噴水の前で待つ事にしたのはいいけど、
今考えるとあのくらげ頭が噴水の場所を覚えているかどうか怪しくなってくる。

「んーでも下手に動いても危ないし…」

「お、いたいた!リナー!」

歯ごたえ抜群のたこをゴリゴリと噛みながら悶々と考えていると、
目の前から待ちかねた姿が近づいてきた。

「ガウリイ遅い!」

「すまんすまん…ちょっと寄り道してた」

「寄り道?」

あたしの目の前に差し出されたのは、一匹の金魚が入った袋だった。

それも淡いピンク色をした出目金である。

「金魚?」

「おう、でめきんっていう種類らしいぞ」

まじまじと金魚を見ていると、こちらに気付いたのかじっとあたしを見つめてくる。

「そこの金魚すくいで見つけてな、こいつだけピンク色だから
みんなに狙われてて可哀そうだなーと思ってさ」

「で、ガウリイが助けたってわけ?」

「そーゆーことだ」

にまっと笑うガウリイと、あたしをじっと見つめたままのピンクの出目金。

…何か、ちょっとじぇらしぃを感じるわ…。

「ていうか金魚なんか買ってきてどーすんのよ」

「あーそれはオレも思ったんだけどな…宿のおばちゃんにでも
あげようかなーと思ってる」

そう言うとガウリイが袋をつんつんと突っつく。

すると金魚はすっと方向転換をしてガウリイの方を向く。

むー…何かずるい。

あたしもガウリイと同じように袋を突っつくと、今度はあたしの方を向く。
が、何故かまたすぐにガウリイの方を向いてしまう。

また袋を突っつくとあたしの方を向くものの、すぐにガウリイの方へ向き直ってしまう。

何だかくやしくてガウリイの方へ向き直る度に袋を突っついていると、
やがてあたしが突っついても何の反応も示さなくなった。

「って何なの!?何様のつもりよこの金魚!このあたしを無視
するなんていい度胸してんじゃないの!!」

「ぷははっ…!金魚に妬かなくてもいいだろ?」

「妬いてないっ!!」

「ま、こいつには悪いが金魚にまで妬いてくれるリナの方が大事だからさ」

「なっ…!だっだからっ!妬いてないってばバカ!」

よしよしと頭を撫でる手を乱暴に払い落とす。

「もー…ガウリイ!たこ焼き3つ追加だからね!」

「はいはい」

後ろから続く笑いを噛み殺した声。

熱くなった顔を見られないように再び屋台の群れへと足早に歩を進めた。

ちなみにこの後金魚はあたし達が泊まった宿のカウンターで飼われる事になりましたとさ。






ツイッターで遊んでくださるverschieden明夜さんからいただきました。
一年12ヶ月と1日から31日にそれぞれ意味を持たせた表がありまして。

それを元にSSを書いてみよう!ということでお互いに保護者SSを
書いたらですね、表にはないけど金魚で思いついたんです。と、
このお話を書いて贈って下さいましたv

明夜さん、ありがとうございますv