柔らかな感触とほのかに香る安心する匂いに、あたしはうっとりと目蓋を開いた。
見えたのは落ち着いた色合いの毛布。
ぬくぬくと包まったあたしはくああぁっとあくびを一つ。
・・・もう一回、寝なおそう。
にゅ〜っと、ふさふさの前足を出して伸びを一回。
それからゴソゴソと身体を丸めて、本格的に寝る体勢をとる。
「お〜い、まだ寝るつもりかぁ?」
毛布の外から声がかかるけど、完全無視の方向でよろしく。
だって、まだ眠いし、外は寒いし。
さっき突き出した前足からは、部屋の中がひんやりとしている事を教えてたし。
「くぁあああ〜っ」
あくびをもう一回。
ぽすんと頭を落とす。
「そろそろ起きんと、もう昼前だぞ?」
うっさい、ほっといてよ。
特に急ぐ用もないんだし、この身体になってからというもの眠くって。
ごそっ。
無遠慮に、冷たい空気と共に差し込まれるでっかい手。
「リナぁ、起きようぜ〜。 飯食いに行こうぜ」
わしわしっと無造作な動きで人の頭を撫ぜ回すごつごつした豆だらけの手に、
あたしはカプッと噛み付いてやった。
「痛いぞ、リナ」噛み付いた人差し指をウリウリと動かしながら
あんたは抗議するけどさ。
「ふぉんなひふふぉふはんふぇふぁいふぁふぉ(そんなに強く噛んでないわよ)」
指をくわえたまんまでもごもご言い返してやる。
ん、ちょっぴししょっぱい。
「犬歯が刺さってるんだって」
ゆっくりとあたしの口から指を引き抜いて、噛まれた場所に息を吹きかけてるらしい。
「あたしはいいから、あんただけでご飯行ってらっしゃいよ」
どうせあたしは食堂に入れないんだし。
どうせ見えないだろうけど、プイッとそっぽを向いてやる。
ひょんなことから獣の姿に変わって数日。
お楽しみのご飯は「ペット同伴お断り」な食堂に入れないせいで、
彼が持ってきてくれるお弁当とか買い出し分しか食べらんないし、
盗賊いぢめなんてもってのほか。
目下のお楽しみは寝る事位しかないんだもん、今くらい好きにさせてよね。
「わかったよ。あとで美味いもん見繕ってくるから」
コツコツと部屋を出て行く足音を聞きながら、あたしはそっと眼を閉じる。
今だけは甘えさせてね。
元に戻ったらまた、しっかりもののあたしに戻るから。
実はもう、元に戻る為の方法は判ってるけど
こういう時間が名残惜しくて言い出せないままでいる。
それに、恥ずかしくって言えない所為もあるんだけど。
「昔話と同じ方法で元に戻れるのよ」なんて。
今晩辺り、寝込みを襲ってやろうかしら?猫は足音立てないし♪
今夜の予定を楽しく考えながら、あたしは眠りに落ちたのだった。