人でなしの恋と呼ばれても





正直言えばお前らには関係ないし黙ってろと思う。

そりゃあオレ達はあれこれいろんな事をやってきた、否定はしない。

だがな、オレ達が行動した結果を受けて命を繋いだ奴も沢山いるだろうに、
その事実を口にするやつは少ない。

結局好き勝手に人を貶めるのが楽しくて仕方がないのだろう。

対象がけっして自力じゃあ勝てない、手の届かない相手ならばいっそうに。



本来の意味とは違う、「人でなし」の恋だと声高に叫ぶ奴ら。

あいつがオレに恋している事を責めるのならば、先にオレを責めればいいんだ。

どうせ表立って言えやしないくせに、いつだって何もしなかった奴らが
後からコソコソ背中越しに囁くんだ。

クソみたいな悪意など塵芥ほどの重みもないが、言われっぱなしは
趣味じゃないし、一人で抱え込んで一人で泣こうとするあいつの
背中をこれ以上見たくないから。

だから、どんなにリナが嫌がっても、オレは人前で、大声で公言してやる。

オレが、リナを、心底愛してるんだって。

リナがいない世界に興味はないし、リナを不当に貶めて娯楽とするような輩を
助ける親切心など持ち合わせちゃいないんでね。



だから、な。

助けてくれ。

どの口でそれをいう?

許してくれ。

許すも許さないも、それ以前の問題だろ?



こんなにも傷ついても傷つけられても、それでも前に進もうと立ち上がる娘の前で
大の大人が揃いも揃って何を喚いてやがんだよ。

さっきまでの威勢の良さはどこにいった?

大切なものを失う痛みを知れば、少しはオレ達の気持ちも理解できるってもんだろ?

ああ、このままじゃあその前に死んじまうか。

さあ、聞こえよがしに大口を叩いたなら、これ位の状況、自力で戦ってみろよ。



『普通 の 人間』 だから 無理 だ?



オレ達だって普通の人間だぜ?

普通に食って寝て、笑ったり泣いたり怒ったりもするし、怪我もする。

どんなに強力な魔法が使えようが、魔族を一刀両断にできるまでに鍛錬を積もうが、
死ぬ時はあっけなく、本当にあっけなく、誰も彼も死んでいくんだ。






「・・・がうりい?」

小さな声がオレを呼ぶ。

まだまだ回復していないだろうに、お前さんは、まったく。

調達した食料を抱えて戻ったオレを見て、横になったままで
リナは安堵した表情をみせて微笑んだ。

この土地でのリナへの風当たりはかなりきつい。

城の奴らや一部の事情を知る人達は良くしてはくれるが、
あまりおおっぴらにはできないという。

同じ土地に住み続けるための処世術だと知っているし、仕方ないわとリナは笑うけど。

……オレは、納得しているわけじゃない。



「待たせちまったな、すまん。 ほら、これ食って元気つけろ」

手の中の果実を一つ握らせて、青ざめた頬を撫ぜてやると うん と、笑うから
愛してるぞ、そう囁いて冷たい唇に唇を重ねた。







立て続けに起きた事件が一応の決着をし、関係各所から憶測推測妄想妄言、
そして一欠けらの真実が世に出た時から、オレとリナはこれまで以上に人々の
耳目を集める存在とやらになったらしい。

ゴシップ誌の記者とやらが張り付き、宿に泊まれば
恐いもの見たさの見物人が押し寄せる。

アメリアのところにいたときはずいぶんマシだったが、好意的でない
人間が多い土地では穏便に物事を済ませるのは至難の技と言ってもいい。



明日はあの道を通らないように移動しなきゃな。

わずかばかりの食事を終え、うとうとと眠りにつき始めたリナを毛布で包んで抱きしめる。

眠りの中でも戦っているのか、酷く魘される事が増えた。

オレがしてやれるのは何があろうと隣にいることだけ。
だから、リナが苦しくないように抱えなおして、髪に頬に唇に、
ありったけの愛情を押し付ける。




魔物に襲われた『襲撃者』達を見捨てたと同じ口で、尽きぬ愛を彼女に捧げる。

ほら、な。

オレこそが本物の 人でなし だろ?


腕の中の娘はただの人間で、オレこそが本当の人でなしだ。



明日は街道を外れて二人きりでのんびりしよう。

雑音のないところで、ゆっくりと……