人でなしの恋と呼ばれても 2




『事件』後、よく眠れなくなってから、ガウリイは一段と過保護になった。

そりゃあまぁ、現状あたしは立派な半病人って立場だし? 

その癖治療に専念しようともせずにあちこと動き回ってるもんだから、
隣で見ている側として見てらんないって感想を抱くのは当然だと判るんだけど。
今、あたしがやってることはあたしに必要だからやってるんであって、
誰かの言葉に動揺したり影響を受けたわけじゃないんだって。

でも、ガウリイはそうは思ってくれなくて、二人きりの時以外はほんとの意味で、
『傍を離れなく』 なった。 

安全な真昼の街道を歩く時でも、しっかりと手を繋いだまま離してくれないのだ。

人の多い街中とかだと、あからさまに肩を抱いてきたり腰に手を回してくるわで、
いくら恥ずかしいと言っても全然聞いてくれやしない。

「オレがしたいからしてる、悪いことか?」

なんて、悲しそうに聞かれてしまうと「そう」とは言えなくて、むにゃむにゃ
口篭っているうちに衆人環視の中でも抱きしめられたりキスされたりも。

・・・・・・認めたくないけど、最近は恥ずかしいよりも嬉しいが先になってる。



誰かに何かを言われる、揶揄される、憶測で罵られる。

今までだってずっとそんなのはあった。

けど、今はそれを受け流す力があたしになくて、実は我ながら
ちょっとばかし情けない状態に陥ってる。



もしあたしが一人だったら。そう仮定して考えると恐ろしくなる。

今、ガウリイと二人だから。あたしはこうして笑うこともできる。



あたしの利き手と、ガウリイの手。



剣士の利き腕はさすがに空けておかなきゃいけないから、暗黙の了解で
繋ぐ手はあたしの右手とガウリイの左手になっている。

その手だけお互いにグローブを外しているから、相手の手の感触やら体温と一緒に、
口に出さないお互いの心の機微が 手に取るように わかるわけで。

指と指を絡めて繋いだ手から、ガウリイからの労わりや憤りが伝わってくるのだ。



きゅっ。

あたしの手を握る手に絡ませた指に、ほんの僅か力を込める。

「どうした?」

それだけの仕草で、優しい声と愛しいと語りかけてくるような青い眼差しを
向けてもらえる幸福に、胸の奥から震えが湧き上がる。



眠れぬ夜なんて幾度でも越えるから。

だから、ガウリイ。

ずっとこうして、あたしの傍から離れないで。



毛布の中に潜り込んできた手に手を預けて目を閉じる。

愛しい の代わりに降ってくるあたたかな唇の感触に酔ううちに、
あたしは甘やかな夢の狭間に落っこちていく。

指より手より、もっと強く、深い場所で繋がりたい。
もっと深く、もっとガウリイに満たされて溺れたい。

この夢が叶う日はいつくるのだろう。



「……おやすみ、リナ」

あたし専用の柔らかな囁きに見守られて、あたしは夢への扉を押し開いた。