くらげのようちえん
  〜ガウリイ・シューカツものがたり〜









とある小さな村に、ガウリイという青年がいた。


7つのときにふた親を亡くし、以来おばあさんと二人暮しだったが、
そのおばあさんも彼が22歳の夏、はやり病で呆気なく世を去ってしまった。


天涯孤独の身となったガウリイの心を慰めたのは、
近所に住むリナという幼馴染の娘だった。


ガウリイは、おばあさんの一周忌が過ぎた頃、思い切ってリナにプロポーズした。


「リナ、オレと結婚してくれ!」


ところがリナは


「イヤよ」


と、キッパリ。


「な…なんでだ、リナ〜っ!?(涙)」
「だってガウリイ、ちっとも働いてないじゃない。
 『働かざるもの食うべからず』ってのが、我がインバース家の家訓ですからね」


リナは決してガウリイのことがキライではなかったが、この一点だけはどうしても譲れなかったのだ。


「リナの言うとおりだぜ、天然」


そこへちゃっかりリナの親父さんも口を挟む。


「毎日ただぶらぶらしてばーさんの遺産食い潰してるだけのグータラに、リナはやれねーな。将来こいつが苦労するのが目に見えらぁ」


落ち込んでいたガウリイは、この言葉を聞くや、たちまち元気を取り戻した。


「そうか。じゃあオレがなにか仕事に就いたらオッケーなんだな!
 よし、待ってろよ、リナ!
必ず就職して、クリスマスには迎えに来るからなっ!!」


そう言うとガウリイは素早くリナにキスをして、リナとリナの親父さんの拳が飛んでくる前に家を飛び出し、ついでに村も飛び出していった。








    * * * * *








勇んで大きな町へとやってきたガウリイは。


「さーて、まず何から始めようかな?」


ちょうど小腹も空いてきたところだったし、
ためしに最初に目についたパン屋に弟子入りしてみた。

幸い、おばあさんに仕込まれていたので、パンの焼き方はおおむね知っていたのだ。


「よし。それじゃあなにか焼いてみろ」


ご主人に言われて、ガウリイは大はりきり。
けれど出来上がったものは……


「な……、なんじゃあ、これわあああああっっ!!?」
「なにって、パンだけど?」


1回で食パン30斤は焼ける店主ご自慢の大焼き釜でガウリイが焼いたのは、
それ1つで30斤分はありそうな巨大な山型食パン!


「こんなバカでかいパンが売り物になるかっ!!
 第一、誰が食うんだ、こんなでっかいモノをっ!?」
「そうか? リナとオレならこれくらい2日分にもならないけどな」
「……もういい。弟子はいらん。
 そのパンはくれてやるから、さっさと出てってくれ!」


そこでガウリイは大きなパンを頭に乗せ、それをちぎってムシャムシャ食べながら、次の仕事を探しに行った。






次にガウリイが弟子入りしたのは、鋳物職人の店だった。


親方は真っ赤に溶けた鉄を型に流し、固めたものをごしごし磨いて、丈夫な鍋やフライパンを作るやり方をガウリイに教えた。
力自慢のガウリイはそれを体で覚えてしまった。


「よし。それじゃあなにか作ってみろ」


ガウリイは猛ハッスル。

使った鉄は名高いサウス・アイアン。
それを溶かして固めて精魂込めて磨き上げ、さて出来上がったものは……


「な……、なんじゃあ、これわあああああっっ!!?」
「なにって、鍋とフライパンだぞ?」


けれどそれはお相撲さんが7人は入れそうな巨大鍋と、土俵サイズのフライパン!


「こんなバカでかい鍋が売り物になるかっ!!
 第一、乗せられるコンロがないじゃないかっ!!」
「あ、そーか。 そこまでは考えてなかった」
「……もうたくさんだ。弟子はいらん。
 それもこれもくれてやるから、とっとと出てってくれ!」


仕方なくガウリイはフライパンの下にキャスターを付け、その上に鍋とパンを乗せて引っ張りながら、次の仕事を探しに行った。






その次にガウリイが弟子入りしたのは、陶器を作る会社だった。


社長さんは妖艶な美人のマダムで。


「あたくしのツバメにならない?」
「いえ、オレは地道にモノづくりの方がいいです(汗)」


そこで社長さんはガウリイを工房へ連れて行くと、土のこね方・焼き方から絵付けの仕方まで、手取り足取り教えた。
ちょっぴり身の危険を感じたガウリイはすぐさま覚えこんだ。


「よろしい。ではなにか作ってご覧なさい」


そうして出来上がったものは……


「……なんですか、これは?」
「えと、皿ですけど?」


たしかにそれは皿だった。
へりにぐるっと黄色いひなぎくが描かれた真っ白なスープ皿。
いかにも女性に好まれそうな一品、だったが。


「まるでプールのようですね」
「ダメですか? 自信作なんだがなぁ」


マダムはふぅっと溜息。


「やっぱりあたくしのツバメに……」
「結構ですっ! 失礼しましたーっ!!(滝汗)」


ガウリイはフライパンの上に鍋と皿とパンを積み上げると、大慌てで次の仕事を探しに行った。










その後もガウリイは色々な事に挑戦したが、就職先は一向に決まらなかった。
それどころか、彼が花火工場を追い出されたのを最後に、町には求人中の店や会社が1軒もなくなってしまった。


“見栄えが良くてそこそこ腕も立つくせに、役に立たないものばかり作る見習い志願”の噂は、その頃にはもう町中に広まっていたからだ。