恋愛セリフ5題

2、「おいで、おいで」




「ん?」

マジックショップからの帰り道、ふと目に付いたもの。

少し先、建物の隙間からぴょこんと突き出たフワフワ尻尾。

金色の毛がフサフサと左右に揺れる。

まるであたしを誘うみたいに。

「犬? それとも猫・・・にしちゃ、ちょっと大きいかしら?」
歩くペースを変えずに、歩みを進めて尻尾に近づき・・・。

「ありゃ?」

確かについさっきまでそこに在った尻尾がいない。

『どこに逃げた?』視線を巡らせると、建物同士の隙間の向こう側に揺れる尻尾が。

「・・・なんか、誘われてる?」

幸いこの隙間、何とか通り抜けられそうな幅がある。

向こう側では『おいで、おいで』と揺らめく尻尾。

ショルダーガードを置いてきたのは幸いだったわ、などと思いながら
ジリジリと狭い隙間を通り、あたしは尻尾に近づいて・・・。

「捕まえたっ!!」

てしっ!!

・・・手の中には数本の金色の毛が残るだけ。

「またしても逃げられた、ってわけね。
このリナ=インバースの手から二度も逃れるなんてあんた、只者じゃないわね」
上げた視線の先、宿の屋根から垂れる尻尾は風に靡いてユラユラ揺れて。

呪文を唱え、あたしは一直線に尻尾を目指して飛んだ。

の、だが。





「・・・あんた、こんなとこで何やってんのよ?」

降り立った屋根の上でのんびり寝そべっていたのは、犬でも猫でも狼でもなく。
自称保護者のガウリイ君。

「おっ、もう帰ってきたのか?」

身体を起こし、笑ってあたしに手を差し伸べてくる。

「ねぇ、こっちに金毛の犬か猫が来なかった?」

「いや、見てない。 それより帰ってきたんなら一息入れないか?
さっき下の店で梨を買ってな。汁が多くて美味いぞ?」

こっちに来いよと、あたしを招く大きな手。

「皮、剥いてくれるんでしょうね?」

その手を捕まえて、今日は満足する事にした。
こいつも金の尻尾を持ってる事だし、美味しい獲物にありつけたし♪

「まったく、ちゃっかりしてるよなぁ」
苦笑しながらも、器用な手つきでスルスル皮を剥いて。

「ほれ」
渡されたのは丸齧りサイズ。



果汁が手に垂れないように、へたとお尻を指で支えて齧りついていると
ピョイっと、目の端を掠めた金の影。

「そっか、美味いか」

ガウリイのすぐ横で、うまうまと梨を齧るそいつは。
フサフサ金毛の栗鼠さんだった。