恋愛セリフ5題

3、「今じゃなきゃ駄目!!」








「おっ、リナがいる」

肌寒さに震えながら、二人して一夜の宿を求めて街中を彷徨っていたら。

急にガウリイが立ち止まった。

「あたしが、って?」

「ほれ、あそこ」

彼が指差した先には・・・すっごくでっかい白猫。

カウンターの下に置かれた箱の中でふくふく・・・いや、
ぷっくぷくな体型はまるで大福か肉まんのようで。

「な? あの膨れ具合といい、寒そうに縮こまった顔といい。おま・・」

ぼっふ。

「何であたしがあんなデブ猫と一緒くたにされなきゃなんないのよっ!!」
拳を固めて鋭い突っ込みを入れた・・・はずだったが。

「ほら、猫パンチだ」
ノーダメージだったのか、クスクス笑いながらガウリイがのたまった。

「そんなに手袋重ねてちゃ、叩かれたってじゃれられてる
ようにしか感じんし。やれコートだ、ショールだ、セーターだって、
体型変わるまで重ね着してたらああなるさ」

確かに、今のあたしの格好はあまりスマートじゃない。

(ビア樽とかだるまストーブに比べりゃまだマシだけど。・・・やっぱり、却下!)

「あの猫のはぜ〜んぶ自前の脂肪でしょ? 
あたしは防寒対策に重ね着してるだけ!
暖かい部屋にありついたら、不要な服はぜーんぶ取っ払っえちゃうんだから!!」



くあ。



こちらの事情など知らぬげに、猫は大きなあくびを一つ。

それから『ぶるるっ!!』と、大きく身を揺すって起き上がり。

「にゃ〜んv」

甘えた声で鳴いたと思ったら、ゆっくりお店の奥へと消えて行く。




「じゃあ、早くお前さんを人間に戻してやらなきゃな」

猫が見えなくなるまで見送った後。

笑顔のまま、急にあたしの手を取り走り出したガウリイ。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 何でいきなり張り切ってんのよ!!」

腰周りにもたくさん布を重ねてあるから、走りにくいんだってば!!

「いいからいいから。 ほれ、あそこでいいんじゃないか?」
示された先に、宿の看板が見えたけど。

「じゃ、先に行って、手続き、しといてよ! あたし、もうっ、走れないって!!」

ガウリイの手を解いて、あたしはその場でちょっと休憩。
さすがに重ね着17枚はやりすぎだったか。

「おお、任せとけ!!」

宿に向かって駆けて行く背中に、妙な違和感を覚えたけど。
ピュウと吹いた寒風の所為で、すぐに忘れてしまった。





「ほれほれ、暖かくなったら脱げるんだろ? 早く人間に戻ろうな〜♪」

一足も二足も遅れて宿に着いたあたしは。

「部屋は2階だから。 ほら、手」

階段を上がるのを手伝ってもらったりして。
そのまま案内された今夜の寝床は確かにすっごく暖かかったけど。

なんで、どうして
「ガウリイと同室なのよ〜!!」

「お前さんを捕まえるのは今じゃなきゃ駄目だって、オレの勘が囁いてだなぁ♪」

「そんな野性の勘はいらないって!!」

「はっはっは、こんなに寒い日にゃあ人肌で温まるのが一番だぜ?」






・・・そうして、あたしは人間に戻る事ができたのでした。

(無事に、じゃないけど)

うぉにょれ、ガウリイ!! 強引過ぎるわよっ!!





で、でも。

この温もりはちょっと、いいかもしんない。