恋愛セリフ5題
 
4 「2回も言わせるな」






唐突だけど。

窓の外は、真っっっっ白だった。

それも『一面の銀世界』とか『朝日を受けて輝く新雪』なんて
可愛いレベルじゃない。

バタン。

『ひゅごぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!!!!!』

『びゅぅおぉぉぉぉうっ!!!!!!』

『びしびちびちびちびしばしっっっ!!!!!!!』

「お〜。すっげぇなぁ〜!!」

一人、状況判ってない奴が。
事もあろうに、板戸全開にしやがった!!

「こんのっ、どアホ〜っ!!!!!!!!!」

どかっ!!!!!

ばったん。

ガチッ。

ぱたぱたぺしぺしっ。

「ううっ、さむっ、寒い〜っ!!!!!!」

いらん事した馬鹿ガウは放っておいて、あたしは赤々と炎揺らめく暖炉へダッシュ!!
震える両手を炎にかざせば、じんわり伝わる暖かさ。
ああ、生きてるって素晴らしい。

背後からゆら〜り、近づく気配。

「何もどつく事はないだろ?」

やかまし。

「外がどんな状況なのか、ちょっと気になっただけじゃないか」

うっさい。

寄るな触るな、そんな目つきでこっちを見るな。

「この様子だと、出立は数日遅らせなきゃならんなぁ」
彼の言葉の端々に、喜びの感情を嗅ぎ取ってしまい。

あたしは小さく。

己を抱き締め身震いをした。





「お客さん、無茶言っちゃあいけませんや。 
この吹雪でただでさえ部屋が足りてないってのに、余分な部屋なんてありませんよ。
見ず知らずのお客さんにも相室をお願いしてる状況なんですから」

無駄と知りつつも一縷の望みを捨てきれず。
宿の主人に一人部屋に移りたいと申し出てみたのだが、答えは予想通り。

猛烈な勢いで荒れ狂う吹雪は、一切の視界を奪い。
向かいの建物の輪郭さえ見えないほど荒れ狂っているのだから。

「それと・・・申し訳ないんですが、一部屋辺りの薪の割り当てを減らさせてもらいます。
この吹雪がいつ止むのかまったく判らない今、少しでも長く保たせる為にご協力を。
間の悪い事に一階に病人が出ちまったんで、なるべくそちらに回してやらなきゃ」



状況は。

一段と悪化した。



「病人って、風邪か何かなの?」

「医者に見せたわけじゃないからなんとも言えませんが、
あの様子じゃ肺炎を起こしかけてますねぇ。
外に出られる状況なら、薬草なりと調達に走れるんですが・・・。
さっき父親が外に出ようとして、たった3歩で遭難しかけましたよ。
伸ばした手の先も見えないんじゃ、どうしようもありません」

食料に余裕があるだけまだマシですよと深い溜息を落とす主人に、
少し待っててと言い置き部屋へと戻り。
自分の荷物から手持ちの薬草を引っつかんで再び一階へと。

「これ、良かったら使ってもらって」
包みを手渡し、あたしは仕方なく部屋へ戻る事にした。

ああ、足が重い。

廊下は隙間風が入り込んで凍えそうなほど寒いし、部屋はここに比べれば
温かだけど。今朝配られた薪は既に・・・一本も、残ってなかったりする。

炎系の呪文で暖炉のレンガを炙って暖を取る事も考えたけど、
万が一火事でも起こしたらシャレにならないし、
専用の設備じゃないからいつ壊れることか。



残るは・・・。



「お帰り。 で、どうだった?」
ベッドの上に寝そべりながら、ガウリイが聞いてきた。
あたしの態度で、そんな事解ってるくせに。

「下で病人も出てるって」

「ああ、それでか」

なにやら納得したらしい。

「で、どうするんだ?」

「どうする・・・って」

言いたくない。

聞きたくない。

ないったら、ないんだってば!!

「オレは、別にいいんだぞ? リナが素直にさえ、なってくれりゃあな」

意地が悪いったら!!

「昨夜は自分から「寒いの、もっと温めてよ」って散々しがみ付いてきたくせに、
起きたな〜と思ったらいきなり呪文ぶっ放しかけてからに。
幾らなんでもあれはないだろ、あれは」ややふて腐れた顔を作ってぼやきながら。

『リナが望まないなら自分からは手を出さない』

ようするに、ガウリイはそう言っているのだ。



幾ら寝起きで驚いたとはいえ、いきなりドラスレはやりすぎた。
幸か不幸か、完成間際で阻止されたけど。

「だって、目が覚めたらあんたの顔が目の前だったんだもん・・・」
そっぽを向いて言い訳してはみたものの、我ながら説得力皆無。

「だいたいだなぁ。普段野宿してる時なんか平気だろうに。
な〜んで今回に限って、そんなに警戒態勢取ってるんだ?」

奴は心底不思議そうに首を傾げてるけど。
自分が昨日あたしに何をしたのか、胸に手を置いて思い出しなさいっての!!

部屋に入るなり、人の装備やら上着やら強引に剥ぎ取って。
力任せに抱き締めてきたと思ったら、そのまま一緒の布団に潜り込まされて。

・・・ああうっ。

「おいおい、お前さんまで風邪ひいたのか?」

思い出し赤面したのを勘違いされて、一気に間合いを詰められてしまった!

「熱は・・・ない、か」
コツンと当てられたのは、ガウリイのおでこ。

青い瞳が、真正面からあたしを捕らえて。

言った。

「風邪ひかない内に、降参してくれよ」って。

優しい、優しい青い瞳。
あたしの事をまるごと包んじゃうみたいな優しい眼差しが、ちょっとだけ細められてて。

つい、喉から本音がちょろっと飛び出した。

「・・・あっ」

「あ?」

おでこを引っ付けたまま、鸚鵡返しなガウリイは、あたしの頭をそっと撫でて続きを促し。

「あた、あたし・・・」

「どう、したい?」
あたしに合わせて、一層身体を屈めて頬を寄せて。

「これなら、聞き逃したりしないから。言ってみろよ?」

触れ合った部分から伝わる温もりに、あたしは・・・。



「・・・あた、ため・・・て」

白旗を、揚げた。




「やっと言ったな!! ほら、寒かっただろ?」
降参と同時に、ギュッと抱き締められそのままお布団の中に連れ込まれ。

ばさどさと、ガウリイが布団の上からコートやマントやらの衣服を広げたと思ったら、
すぐ隣に滑り込んできて。

あたしの事を、遠慮も容赦もなくぎゅぎゅっと、力強く抱き締め温めてくれたのだ。



それから。

吹雪が収まり宿を立つ日の朝まで。

ほとんどの時間を布団の中で過ごしたのは、ここだけの秘密ってことで。







お題セリフ、直接言わせていませんがリナさんの心の声ってことで(土下座)