午後に到着したレシェル村は想像していた以上に小さな村で、
リナ御目当ての眠りを誘うハーブこそ手に入れられたものの
あいにく村内には宿がなく。
せめて軒先だけでも借りられないかと近所の家に声をかけても
色好い返事はもらえなかった。

数件回ったところで所詮通りすがりの素性も知れぬ旅人を
泊めても良いと思うような無用心な家はないか、と諦めて
結局、ここの村長に頼み込んで村はずれの教会に隣接する馬小屋を
  借りられる事になったのは、もう日が暮れようとする頃だった。
  



  「あーあ、今日はついてないわ。
今日こそ朝までしっかりぐっすり安眠できると思ったのに。
  せっかくこのハーブを手に入れたってのに、朝まで眠れる
あったかい部屋とフカフカお布団さんがなくちゃ話にならないわ」

心底がっかりと肩を落とすリナに、
  「お前さん、昨日は良く眠っていたが?」と言ってやる。
  
  「確かにそうだけどさ、あたしは朝までじっくりしっかりゆ〜っくり!!
一人穏やかに、手足を伸ばして心ゆくまで眠りたいのよ!」
  ゆ〜っくり、の所に思いっきり感情を込めてリナが唸る。

  「まぁ、ここだって野宿よりはましじゃないか?
  一応雨風防げるし、敷き藁だってたっぷりとある。
獣だのに襲われる心配だってないじゃないか。
  おまけに食糧は色々と調達できたから結構マシだと思うが?」

オレは野宿だろうが一向に構わなかったのだが、こういうのも悪くない。

  「ま、いっか。うだうだ文句言っても状況が変わるわけでもなし。
じゃ取りあえず食事にしましょ♪」

今日の戦利品を二人の前にずらずらと並べていくリナ。
さすがに気持ちの切り替えが速い。
  小さな村だから仕方がないが、手に入った肉類は長期保存が利くように
ハーブをまぶして乾燥させていたり塩漬けされたものばかり。
  近くの川で魚を捕まえられたのは良かった。これは焼いて食べる。

  野菜はさすがに畑で採りたての新鮮なものが多かったので、
  教会の人に借りた鍋にぶつ切りにして放り込み、水と塩漬け肉とで
一緒に煮込むと美味そうなスープができた。

  「ガウリイ、意外と味付け上手じゃない!!」

  「まぁな、いつもお前さんと美味い物ばっかり食べてるから
  口が肥えてるのかもな」
  
ぐりぐりとひしゃくで鍋の中身をかき混ぜながら、考えるのは
このあと迎える夜、どうするか。そればかりだった。




いつものように賑やかな食事を楽しんだ後、
  「さーてと。ガウリイ、悪いけどお湯沸かしてくれない?」
  そう言いながら、リナは今日買ったばかりのハーブを摘まんでコップに入れた。

  「後はここに熱いお湯を注いで、しばらく蒸らしてから呑めば良いって」
楽しそうに手の中のコップを見つめる仕草もやっぱりかわいい。

程なく湯は沸き、ハーブティーは完成した。
が、この匂い・・・青臭いというか、草臭いというか。
飲めば眠れるといわれても飲みたいとは思えんのだが。

  「できたできた♪ 匂いはともかく、さーてお味の方は。・・・微妙」
  少々変な顔をしながらも何とかカップの中身を全部飲み干すと
  「じゃ、早速あたし寝るから。おやすみ〜っ」と
  そのまま後ろに積んであった干草の上に転がった。
  
  「リナ、今日は抱き枕要らないのか?」

  からかうと「うっさい!今日はきっと要らないわよ」と
  恥ずかしいのか少し怒った風に舌を出して
「寝るっ!!」と勢いをつけてそっぽを向いてしまった。





こうなってしまうと特にやることもなくなり、手持ち無沙汰な時間を過ごすうちに
  スースーと小さくリナの寝息が聞こえ始めた。

眠りを誘うハーブというのもまんざら嘘じゃないようだが、問題はこの後だ。

・・・そろそろ、か?

不意に、糸で引っ張られでもしたようにリナの手が持ち上がり、
何かを探すようにゆるゆると辺りを探り出す。

パタパタとあちこちを彷徨っているが、お目当ての物にはありつけない様子。

  ・・・オレはここで見ているだけだから。



  「・・・っんんん。・・・りぃ・・・」

途切れ途切れの寝言が聞こえる。

  リナが夢で探しているのはオレ。
  だけどその事にリナは気が付いていない。
  なら、本人が自覚するまで放っておけば?
  そして、彼女が自分の探し物が何かに気付いた時。
  それが二人の関係を変える絶好の機会。

今までの関係をひっくり返す為にもオレだけがお前を求めるんじゃなく
リナにもオレを意識してもらわなきゃダメなんだ。



  「んん、ぅにゃっ!」

  ほら、やっぱり眠れないじゃないか。
不機嫌を顔に貼り付けたまま飛び起きたリナ。
宥めるように軽く頭を撫でてみても効果はなしか。

  「なんで? いつもよりはいい感じだったのにっ!!」
そのまま朝までぐっすりじゃなかったの!?と藁を叩いて唸ってる。

「やっぱり抱き枕がないと寝れないんじゃないのか?」
ほらほら、目の前に手ごろなオレがいるんだぞ?

  「言われなくとも今から作るわよ!!」
よっぽど眠いのか少々ヒステリック気味に叫ぶと、
リナは自分のマントで藁を包んで急ごしらえの抱き枕を作りあげた。

  「んじゃ、今度こそおやすみっ!!」
照れも手伝ってなのか、ろくにこちらも見ないまま
がさがさするだろう藁の塊に抱きついて横になりはしたが。



  ・・・どうせ寝れないだろうな。
  


やっぱり寝付けないらしく、リナはいい感じに寝られる体勢を
探して動いているが、そこじゃない。
そいつはただの藁の塊で、温かくもなければ幾ら待っても
お前さんを抱きしめてはくれないぜ?



リナとは少し距離を取った場所に横になって
何も言わずに寝たふりをして、リナの観察を続けた。