太陽は既に天高く昇り終え、ゆるやかに地平線を目指し始めた頃、
ようやくリナが目を覚ました。

  「おはよう、良く眠れたみたいだな」

ぱふん。っと、目の前の乱れた髪を一撫でしてみたんだが
「おは……よ。って。ぎゃあああああ!!」
リナの奴ときたら、いきなり大声を上げて飛び起きちまった。

別に何かしたわけでもなし、いきなり逃げなくても良いじゃないか。

  離れてしまった温もりを名残惜しく思いながら、軋む身体を起こす。

一晩中同じ姿勢で過ごしたお陰で強張った身体を伸ばして唸っていると
「・・・おかげさまで、ぐっすりだったわ」と、小さな声で謝辞をもらった。

決まり悪げにそっぽを向いたままだけど、これでオレの添い寝は
安眠の手段として効果ありだと認めてくれるかな?

「よかったな、随分目の下がすっきりしてるぞ」

軽い口調で声を掛けて、俯いてしまった彼女の頭に手を置いた。
  まあ、昨夜からたっぷりと昼過ぎの今までぶっ通しで寝てたんだから当然か。
  
「ま、まあ、あまりの睡眠不足のせいでたまたま熟睡できたのかもしれないしっ!!
ガウリイの添い寝が効いたって証明されたわけじゃないわ!」
パッと顔を上げて早口で言い切ると、すぐにまた俯いちまう。

  「ならここでもう一泊してみれば良いじゃないか。
一応昨夜で睡眠不足はかなり解消されてるはずだし、
もしも今夜、オレが添い寝しなくても朝までぐっすり眠れるようなら
なんの心配も要らないってことだろ?
とにかく、今のうちにしっかり原因を突き止めとこうぜ」
オレの添い寝なしじゃ寝られないって、しっかり認識してくれよ。
  
  「・・・今日の分の食料、どっかで調達してこないと全然足りないわよ」
  今日もニギタケが食べられるのならここでも良いんだけど、と
  暗に匂わせてくるあたり、リナもちゃっかりしてるなぁ。

「ならオレは食料探してくるから、リナは薪を集めておいてくれよな」

  じゃ、行ってくる。と、ここはあっさりと引き下がった。

  起きてから只の一度もこちらを真っ直ぐ見ようとしない、
頑固で恥ずかしがりな彼女を落ち着かせる為に。

「そんなのあたしに任せときなさいって! 行ってらっしゃい」

  森へと向かうオレの背に、明らかにホッとした声がぶつかった。





  今日も首尾良くニギタケを沢山摘むことができたし、
他にも山鳥や猪、甘く実った野生の果物まで調達できた。

二人して手加減なしで食いまくっても多分3日は大丈夫。
これならリナの機嫌も良くなるだろうし、明日は二人でのんびりできるだろう。

それにしても、日があるうちにリナのところに戻れるのが嬉しいよな。

  「リナーっ、帰ったぞ〜っ!!」
うんうん、まるで新婚さんのようじゃないか♪

  って・・・おひ。

  「ふぉふぁえりっ、ぅくんっ、ふぁふひぃ」

  ・・・リナの奴、一人で魚焼いて食ってやがった。

  しかもオレに見つかった瞬間、取られるとでも思ったのか
手に持った分全部を無理やり頬ばろうとするとか、そりゃないぜ。

そこの泉かどっかで捕まえたんだろうが、できればオレが
帰ってくるまで待つとかして欲しかったぞ。

  「・・・美味いか?」

  ジト目で見つめてやると、しら〜っと視線をそらす。
が、魚の串を手放すつもりはないらしい。

せめてそこのちっこいやつ一匹でも分けてくれりゃあ話も違ってくるんだが。

「リナが先に食ってるんなら、オレも一人でこれを食うか」

  わざと大きな声を出して、これみよがしにニギタケ入りの籠を振ってみせると
  「や、これは味見。味見だってば!
ね、がーうりい、そんな事言わないで?ね?ね?」
今更きらっきらのかわいこぶりっこ全開で擦り寄られてもなぁ……
ま、これも惚れた弱みってことで。

  「そういうことにしとくか」

  「そういうことにしといて」

ごめん、ちゃんとガウリイの分とってあるから。
茶目っ気たっぷりに笑いながらも、視線はしっかりニギタケの籠に釘付けだ。

そういうとこはやっぱりまだ色気がないぞ、リナ。







そして、時間は進み夜は更けて、とうとう寝る時間になった。

  「今日はどうするんだ?」

毛布を手に一応聞いてみる。

どうせ素直に来ないだろうと予想はしていたが
「今日はガウリイの添い寝はいーらないっ! 今夜はきっと大丈夫だもんね♪」と
さっさと焚き火の向こう側で寝る準備を始めていた。

おいおい、そんなに離れてちゃつまらないじゃないか。

「もし眠れなかったら、遠慮しないでこっちに来いよ」

  ま、今は深追いはしないでおこう。

あとはリナが自分から腕の中に飛び込んでくるのを待てばいい。

そうなったらあとは・・・湧き上がる楽しい妄想に忍び笑いがでちまって
こっそり毛布を引き上げて緩む口元を隠した。

だが。

  「・・・ガウリイ、なんか雰囲気怪しいよ?」

さすがはリナ、しっかりと感づかれてた。

まさか警戒されてないよな!?

  「さっきのリナの様子が、まるで頬袋を一杯にしたリスみたいだったな、と思ってな」

  咄嗟に思いついた軽口を言ってやると
  「うっさいよ!!」と怒りの篭ったスリッパが飛んできた。


  やれやれ、何とか誤魔化せたみたいだな。

  そして。

リナはふくれたまま向こう側で毛布とマントをかぶって横になり、
オレもとりあえず横になって獲物が飛び込んでくるの待つ態勢。

早く『オレとじゃなきゃ眠れない』って認めて、こっちに来いよ。
あんまり焦らさないでいてくれると嬉しいんだがな。